Dr. Tashiro のマジックレポート (No.7)

マスクマジシャンの公演をみて

The Masked Magician 
 禁断のトリック、完全公開!

 日時:2001年12月19日 18:30開場 19:00開演
 会場:東京厚生年金会館
入場料: 9,000円(全席指定)

主催:日本テレビ


総論:

11のイリュージョンが演じられ、そのうち単純に種明かしされたのは3つ(シュリンク・ボックス、人体浮揚、人体切断)、サッカートリック(sucker trick)仕立てのものが3つ(ヒンズー・バスケット、ジグザグ・ボックス、人体切断)。残りの5つについては種明かしはしなかった。またサロンマジックも行われ、これに先立ちチャイナリングを1人の観客だけに種明かしをした。(その上で、チャイナリングを含めたサロンマジックを行った。)

どれも大変にもたもたした演技であり、途中で飽きてしまうような場面もあった。種明かしといっても、ハンディーカメラで舞台裏を写すといった見せ方が多く、わかりにくいところも多かった。サロンマジックも中途半端な手順であり、素人芸と言われても仕方がない。最後のイリュージョンも手際が悪いばかりでなく、不思議さも伝わらないお粗末なものであった。入場料を払い、貴重な時間を割いた観客はどこまで満足しただろうか。

ショー全体を通して、大袈裟なナレーション(「命を狙われている」、「古いマジックを駆逐する」など)と派手な舞台効果(レーザーや火薬の多様)が鼻につくほど多用されるが、きわめて幼稚な発想に基づくものであり、制作サイドの教養のなさが露呈される結果となり、本当に気の毒なようにも思えた。例えていえば街頭芝居のように、ただ大衆の下品な好奇心にのみに支えられて成り立っている様子で、これはプロデューサーの澤田隆治氏の「これは視聴率が稼げるショーだ」といった意味の発言に象徴されている。マジックのタネを「暴露する」ということをショーの中心に据えることに対する常識人としての対応として、その是非を問う以前に、それが悪趣味で貧困な文化基盤の上にしか成立し得ないという事実を共通認識として広く普及すべく努力をした方がよさそうである。

「内容がどうあれ大衆が迎合するならなんでも垂れ流そう」という思想は決して珍しいものではない。「ショービジネスにおいてはなんでも『アリ』なんだから。」という発想は古くからあって、その金科玉条のもとで巨万の富を築いた人々も大勢いることだろう。だが私にはそんなことを嘯(うそぶ)いて、劣悪な仕事を次々にこなしていくショービジネスに働く人々を、詐欺師を見るときのように忌まわしい目で見てしまうだけでなく、仕舞いには彼らが救いようもなく哀れに思えてしまう。

そんなことをして我と家族を支えていくことが、いかに惨(みじ)めなことなのかは、きっと彼ら自身が最もよくわかっていることだと思うから。


19日、午後6時45分会場着。受付では、一般の受付のほか、招待者や「テレビランド」という会社関係者向けの受付デスクが設置されていた。ロビーではマスクマジシャンの「お面」(500円)、千社札(4枚セットで500円)、ナポレオンズの一般の方向け「宴会芸」のレクチャービデオなどが販売されていた。2階席は全て閉鎖されており、1階席(1186席)は、日本テレビのカメラクルーが後の客席をつぶしてカメラなどの器材を設置していた。またその前方ではショーの進行を行うためのコンピューターなどが置かれたブースも客席をつぶしてつくられていた。ブースにはスタッフが4名ほどおり、パソコンに向かっていた。外国人スタッフも1名おり、Tシャツから出ている両腕には刺青が多数彫ってあり、とてもまともな人間には見えなかった。観客の入りは90%程度。座席が多数つぶされているので、実数としては1千名いたかいなかったか、というところではないか。マジック関係者はちらほら。一般の観客が大部分ではなかったか。例えば私の隣りは若い女性1名で来ていた様子であり、この人が1人でチケットを買って入場したのかな、と思うと首をかしげてしまった。客席は照明効果を上げるためにスモークが充満していた。

予定の7時を過ぎて、左右のプロジェクターにて上映が始まった。内容は日本テレビで放映済みの、マスクマジシャンの特集番組(第2弾)を編集したもので、フジテレビの社屋を消す場面などが印象的に紹介された。そのマスクマジシャンが今から登場する、とナレーションが入る。どん帳が静かに上がる。どん帳のすぐ後には半透明なスクリーンが降ろされている。観客はこのスクリーンを通して舞台を見る格好になる。スクリーンにはマスクマジシャンの「マスク」が大写しされている。まずはナレーターの自己紹介。「ジョージ・タチバナ」と名乗る。マスクマジシャンは命を狙われており、自分も詳細な自己紹介はしたくないと、オドロオドロシイ低い声でナレーションを続ける。あまりに幼稚な演出に吹き出してしまいたくなる。観客への注意もあった。「上演中、ふいに席を立ったりしないで下さい。(マスクマジシャンの命を狙う者と間違えるので。)これは警備上の理由です。」

(1)マスクマジシャンの登場と瞬間移動

突然スクリーンの「マスク」が燃え上がり(映像)、両目からは緑のレーザー光が発せられ、その光が客席に照射される。スクリーンが静かに上がるとそこにマスクマジシャンが腕組みをして立っている。詳細は不明だが何かの拍子にマスクマジシャンは消え、次の瞬間マスクマジシャンは客席の中央から現れる。

(2)タワー・オブ・デス

強力なサーチライトをもったスタッフが5名ステージ上でダンス。客席に向かってこれを照射する。レザー光線も客席に向けて発せられる。マスクマジシャンはステージ上に無造作に置かれた木箱の上に上がったりしている。種明かしショーをする理由についてナレーションが入る。(「古いマジックを破壊し、新しいマジックを創造する」というのがその理由。同じ趣旨のナレーションが今後何度も演技中に入る。)相当長い間、ダンスが行われる。上手・下手に3名ずつ分かれて踊ったり、ビキニ姿の3名の女性が登場して踊ったり。(その間マスクマジシャンは棒立ちである。)

やっと「セリ」から最初のイリュージョンの装置が上がってくる。タンスのようなものが、1本足の台に乗せられている。7、8段の階段が設置され、マスクマジシャンは3名のビキニ姿の女性に伴われてタンス上の箱に入る。箱は正面が透明である。箱の両側からは「翼」のような板が出ている。この「翼」には多数の剣(つるぎ)が取りつけられており、この翼が固定を外されると、パタンと落ちてタンス上の箱の両側にぶつかることになり、剣は皆箱の中に突き刺さるような構造になっている。

マスクマジシャンを箱の中に残して女性たちはステージに戻り、階段が下手に下げられる。箱の前面はカーテンが下りており、中のマスクマジシャンの様子はわからない。ここでナレーション。「テレビではマスクマジシャンは階段の陰に隠れていましたが、今回はそういうトリックは用いていないようです。テレビとは異なるトリックなのでしょうか。」

次の瞬間、両側の翼が落とされ、剣が箱に刺さる。ステージの上手下手でファイアーが上がる。カーテンが外されるとそのにはマスクマジシャンはいない。マスクマジシャンは客席から現れる。

(3)シュリンク・ボックス

ベッドの上に横長の箱が置いてある。前面はカーテンになっている。中に女性が入る。箱の上部からは女性の両手と両足が出ている。箱の両端を押すと、箱は次第に短くなっていく。両手・両足が出たままなので、中の女性がだんだん小さくなっていくように見える。

再び箱の両端を引っ張り元に戻す。女性は無事、箱から出てくる。この直後に両端のスクリーンに「トリック暴露」と表示される。ハンディーのカメラマンがステージに登場し、装置の内部の様子をスクリーンに映し出す。実際に再び女性が箱の中に入ってどのようにマジックを行うかやって見せる。

(4)スモール・バスケット(ヒンズー・バスケット)

リボンダンスを踊る女性の登場。次に剣を持って踊るダンサーが2名登場。1本足の高さ1mほどの台の上にバスケットが設置されている。このバスケットにリボンダンスを踊った女性が入り、剣を4本刺す。剣を抜いて、バスケットに布をかけると中から無事女性が現れる。

種明かしに入る。カメラが近づき、再びバスケットに入った女性の姿勢をスクリーンに映し出す。最後にナレーションが入る。「あなたはこのマジックのトリックを見破ることが出来ましたか?」女性が無事にバスケットが出てきた後、もう1度バスケットに布がかけられる。すると中からもう1名女性が出てくる。

(5)ジグザグ・ボックス

「こんな古びたトリックをやるのは本当のプロとは言えない。」などと酔狂なナレーションによりスタート。タンスのような箱に女性が入り、腹部に板を刺し込んだ後に、腹部の部分を横にずらしてみせるという、1965年にロバート・ハービンが発明した名作を演じて見せる。

これに引き続き、腹部が見えるように真中の扉を開けた状態で再び演技を行う。相変わらず「命が狙われている」などのナレーションが入る。さて、ジグザグにした状態で装置を後向きにする。次に、腹部の箱を完全に抜き取ってしまい、これを下手の木箱に置く。また、上半身部分は上手の木箱の上に置く。下手の木箱の上の箱からはやはり女性の手が出て動いている。また、上手の木箱(この木箱は正面の板がないので、中が空であることが客席からはっきりわかる。)の上に置かれた箱からは、女性の顔と手が出ている。

(6)ファイブ・パーツ・セパレーション

1m程の高さの台の上に人が寝て入れるような箱が置いてある。中に女性が入り(箱全体が客席側に持ち上がるようになっている。女性が客席と反対側に出来た隙間から箱に入る。)、両端から両手と両足を出した状態になる。箱に板を次々に刺し込んでいき、女性の体を5つに「筒切り」にしていく。箱の両端を引っ張ると箱は次々に分割して5つの部分に分かれる。再び箱を元通りにして、板を抜き、箱を開けると女性は無事に箱の中から出てくる。

「それでは暴露です。」とナレーションが入った直後に客席から野次が飛び、ナポレオンズが客席からステージに上がる。ハンディーカメラのレンズを手で押さえたりして、「暴露をするな!」などと言っている。ドタバタ劇。どん帳が下りる。陰マイクでナポレオンズの声。「20分休憩しちゃう?」などと言う。

※20分の休憩。

始まって30分足らずで休憩とは驚いた。1部30分、休憩20分、2部のナポレオンズ20分、マスクマジシャンの演技40分、ロスタイム(ベルが鳴っても始まらない。)10分といった構成か。

(7)人体浮揚@

ステージ天井から3本のロープが垂らされ、3人の女性が降りてくる。ステージ床にはスモークがたかれている。緑色のレーザーが客席に向けて照射される中、3人の女性は延々とダンスを踊る。マスクマジシャンが登場して、客席へ降りる。最前列に座っている小学生(3、4年生)にお手伝いを頼み、手を引いてステージに戻る。

ステージには2つの脚立が1mほど離して置いてあり、その2つの脚立を「足」にして1.5m程の細長い板が置いてある。ここに少年を寝かせて、脚立を取り除く。種明かしが引き続いて行われる。背景を取り除くと、板を支えるアームが突き出ている装置が現れる。

(8)人体浮揚A

ステージ中央に小さなステージが置かれている。ここにマスクマジシャンが立ってその前に女性を寝かせる。女性はマスクマジシャンの腰のあたりまで浮揚する。白い大きな輪を通して見せる。

(9)ナポレオンズのコーナー

ナポレオンズが登場。空中浮揚、「あったまグルグル」を見せる。客席から小学生の女の子にお手伝いを頼む、3本の缶入り飲料のうち1つを選んでもらう。あらかじめ示した袋の中に、その少女が選ぶ飲み物と同じものが入っているという。予言は的中するが、あらかじめ袋の中に「予言」の缶が3本(3種類)入っているのではないかと、小石氏が疑って見せる。袋の中には案の定3本入っているのだが、3本とも同じもので、しかも少女の選んだ飲料と同じものである。(これもやり方を解説する。)

最後は箱の中に小石氏が入り、ここに6本剣を刺す。箱の後側を見せると、巧妙に剣をよけて箱に入っている小石氏の姿が見える。この状態で、いわゆる「人体交換」を行う。植木氏が剣が刺さったままの箱の上にたち、カーテンで隠した状態で箱の中の小石氏と入れ替わるというもの。

退場時にマスクマジシャンと握手をして、マスクマジシャンと交代する。

(10)人体切断@

まずは、客席に下りて先ほど人体浮揚を手伝ってくれた子供に自分の「お面」をプレゼントする。

ナレーション。これから3段階に分けて「人体切断」を暴露するとのこと。まずは、箱の中に女性が完全に入ってしまい、両手だけを出して、切断する方式。(足は中の足かせに固定する。)ビキニ姿の女性3名と行う。さらに、箱の中が見える状態で演技を再現する。タネが見えている状態で、箱は下手に下げられる。

(11)人体切断A(ブレード(blade)・ボックス)

箱の4枚の側面の板が全て倒れるようになっている。(箱の中が完全に見える。)女性を寝かせた後で、箱を組み立てる。女性の両手が箱から出た状態で、8枚ほどの板を上から縦横に刺し込んでいく。女性には隠れるスペースがないように見える。

ハンディーカメラを利用して種明かしをした後、さらにもう一度箱の中に女性を入れる。次に、箱の側面を倒すと、女性は完全に消えている。

(12)人体切断B

木で出来た電話ボックスのようなものの扉を開けると中から女性が登場。ベッドに寝かせ、腹部だけを金属のベルトで固定する。腹部をレーザー光線で切っていく。火花が飛び散ったりする。ベッドごと女性を2つに切り離して見せる。

(13)チャイナ・リング

2本のチャイナリングで抜き差し。客席から若い女性を選び、ステージに上がってもらう。客席の方を向いてステージに立っている女性の前にマスクマジシャンは立って(観客に背を向けるようにして。)、その女性1人だけにチャイナリングの仕掛けを見せ、どのように抜き差しをしたかを見せる。最後に「この秘密は誰にも言わないで下さい。」というコメントが入って、演技は終了。

(14)サロン・マジック

「これからマジックの楽しさを皆さんにもわかってもらえるマジックをやる。」といったナレーション。4本リングの手順。カードマニピュレーション。(5枚カード、小さくなるカード、ファンカード、プロダクションなど)。フラッシュストリングに火をつけると、キャンドルに変化。(これをテーブルに立てておく。)バラの花一輪を示す。花の部分を摘むと、紫色ののべシルクに変化する。そこから鳩が首を出す。よくみると、首だけしかなく、人形だとわかり客席からは笑い声が漏れる。フラッシュ・ペーパーにテーブルの上のキャンドルで点火。青いのべシルクが出現。先ほどの紫ののべシルクとあわせると、中から本物のあひるが出現する。さらにもう1羽出現する。

(15)人体貫通

金属製の直径2mほどの輪がある。ここにマスクマジシャンが「大の字」に固定される。腹部は丸い紙で隠されている。輪の両側には鉄柱が立っており、マスクマジシャンが大の字になったまま、輪が5mほど上に引き上げられる。さらに輪は90度回転して、マスクマジシャンが下向きでステージの床と平行になるように保たれる。マスクマジシャンの真下には女性が剣をまっすぐに立てた状態で立つ。輪はゆっくりと下に降ろされる。マスクマジシャンの体に剣が突き刺さると、再び輪は上に引き上げられる。

さらにまた輪は下に降ろされるが今度は女性自身が貫通してしまう。貫通した状態でさらに輪は女性ごと持ち上がり、鉄柱の中央くらいのところで輪は90度回転し、元の位置に戻る。女性は確かにマスクマジシャンの腹部に貫通しているのがわかる。最後にマスクマジシャンが無事であることを示すと、ステージの上手下手両側が爆音とともにフラッシュして、レーザー光線が客席を派手に照射する。

どん帳が降りると、「マスクマジシャンはすでにこの会場から脱出しました。カーテンコールにも応じられません。」とのアナウンス。また両側のスクリーンでは日本テレビの年末番組(マスクマジシャン第3弾)の宣伝が流れた。

2001年12月24日 田 代  茂  (JCMA代表)

スティングのコメント:

田代 茂さんの日記(12月19日分)にも感想が書かれています。併せてご覧ください。


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Update: 2001/12/31