Dr. Tashiro のマジックレポート (No.2)

たっぷりとクロースアップMAGIC No.17

 日時:1999年11月3日(水・祝)6:00 p.m.開場
 会場:労働スクエア東京 601
(旧 東京都勤労福祉会館)日比谷線 八丁堀

 入場料:2000円


はじめに

 話には聞いていたものの、参加するのは初めてで、会場にたどり着くのも骨が折れた。仕事の都合で神田からタクシーで会場に乗り付けることになったのだが、無愛想な運転手は労働スクエア東京を知らない。もとの東京都勤労福祉会館なのだがと言ってもこっちだってあやふやなのだから、気合い負けしてしまい、結局「ぢゃあ、八丁堀の駅でいいよ。」ということになってしまった。八丁堀の駅から会場までは近いと聞いていたのだが、広い通りの端に降ろされて、どっちを向いても大きなビルばかりで方角の見当が立たない。道を尋ねようにも八丁堀はオフィス街なので、祭日の夜ともなると人影もない。いくらか不気味なようでもあった。しばらく歩き回りようやく駅周辺の案内地図を発見し、無事に着くことができた。あとからわかったのだが、八丁堀の駅といっても、JRの八丁堀駅と営団地下鉄の八丁堀駅が存在するのであって、件の運転手は私をJRの八丁堀駅の前に降ろしたらしい。憎さも憎し、である。建物に入ると中では予想外に様々なグループの人々が活動していて、パーティーなども行なわれており、おやおやと思った。「たっぷりと」は6階で行なわれるので、エレベーターで6階へ上がった。広い部屋の中央壁際と、4隅に計5つのクロースアップマジックを行なうためのテーブルが用意されていた。それぞれのテーブルの周りには半円形に30〜50人くらいのお客さんが見られるよう椅子が配置されていた。中央壁際のテーブルの反対側の壁際にはディーラーズブースが設けられており、荒井さん、二川さん、坂井さんの道具やレクチャーノートが販売されていた模様である。午後6時会場で、開演は6時30分。演者は1人15分。6人の演者がショーを行った。途中3人目の演者のショーが終わった後、20分程度の休憩がとられた。ショー開演に先立ち、主催者の荒井晋一さんから挨拶と出演者の紹介があった。その後はそれぞれのテーブルに別れてのショーとなった。

(1)荒井晋一

[1]ブレインウエーブデック(お客さんに自由にカードを1枚思ってもらう。そのカードがデックの中で表向きになってでてくる。また、そのカードだけバックの色が異なっている。)

[2]赤裏バイシクルのデックを示す。さらにその中の1枚のカードを示す。裏には「あなたはこのカードの前でストップをかける。」と書いてある。この「予言のカード」をデックに入れて、デックをシャッフルする。カードを1枚ずつテーブルに置いていく。お客さんにストップと言ってもらう。「ストップ!」でカードを配るのをやめる。「このカードをテーブルに置きます。その次のカードが最初に示した予言のカードであれば成功です。」といって、ストップがかけられたカードをテーブルに置くと、確かにその次に予言のカードが現れる。また、ストップがかけられたカードを表に向けるとそのカードはハートのエースであり、さらにその表には、「あなたはこのカードを選ぶ」と書かれている。

[3]青いひもとナットのマジック。ひもに通したはずのナットがひもからはずれてしまう。この現象を2回見せる。2回目はハンカチを用いる。ナットにハンカチをかける。ハンカチを取り除くと大きなナットになってしまう。大きくなったナットの消失・出現現象。

[4]4枚のカードを示す。赤いスーツ2枚(4Dと4H)、黒いスーツ2枚(4Cと4S)。互い違いに重ねても赤と黒が2枚ずつに分離する。この現象を2回示した後、「4枚だからわかりにくいのでしょう。今度は赤1枚、黒1枚でやりましょう。」と言って、2枚のカードを示して混ぜる。表に向けると、それぞれのカードの半分がハート、半分がスペードの特殊なカードに変化してしまう。「では1枚だけで、やってみましょう。」といって、1枚の黒のカードを示す。その裏をみせるとバックの色が赤に変わっている。「赤と黒が分かれました。」と言って演技を終える。

[5]お客さんに好きなカードを1枚思ってもらう。そのお客さんをポラロイドカメラで撮影する。カメラの裏のふたを開けると、中からデックがケースごと落ちる。「特殊なフィルムです。」といって笑わせる。カードをリボンスプレッドすると、赤裏のバイシクルの中に青裏のカードが1枚混じっている。「あなたは1つのカードを思っていますね。このカードがそれと同じであったら驚きですよね。」と言いながら青裏カードをひっくり返す。カードには「それと同じです」と書かれている。お客さんといくらかやりとりした後(お客さんの思ったカードを尋ねる)、もう一度デックを広げて見せる。やはり青裏のカードが現れる。そのカードを表にすると、お客さんの思ったカード(AH)になっている。

感想:

 オープニングで用いるカードを取り違えるハプニングがあり、それもお愛想であった。(実際には[1]と[2]の演技は前後した。)1つのルーティンの中でトリックデックやパケットトリックをいくつも入れてしまうと、演者の方が混乱してしまう恐れがあるが、途中ひもとナットの演技をはさみさらりと演じられていた。特に最後のポラロイドカメラの中からデックが出るところをでは歓声が上がるほど受けていた。ひもとナットの演技は、荒井さんのオリジナルのギミックが用いられたそうで、ディーラーズブースで即売されていた。楽しい雰囲気での演技ではあったが、ディーラーズショーのような印象は払拭できなかった。

(2)坂井弘幸(HIRO SAKAI)

テーブルに道具をセットしておいて、「今から登場しますから!」と言って改めて小走りで登場する。(笑)ショーを見せる上でのセンスがキラリと見えたように思った。「本日のショーのテーマは『U!』です。」(笑)「お客様のお手伝いをよろしく御願いします。」

[1]デックを取りだし、3人のお客さんに次々にカットしてもらい、テーブル上に4つのパケットをつくる。最後のパケットを取り上げトップカードを見せるとエースである。他の3つのパケットのトップカードをカットしてもらった3人のお客さんにみてもらうと、それぞれエースのカードである。

[2]パスポートケースを見せる。開いて中を見ると、3色の紙片がはさまっており、その反対にはパスポートもはさまっている。3色の紙にはそれぞれ、「ニューヨーク」、「パリ」、「シドニー」と書いてある。「これら3都市のうちの1つの都市行きの航空券がパスポートにはさまっています。その都市(航空券に行き先として書かれている都市)を選ばれた方に(パスポートにはさまれている)航空券を差し上げましょう。」と説明し、2人のお客さんに紙片を1枚ずつ取ってもらう。残りの1枚を演者が取る。最初のお客さんに紙片を開いてもらうと、「あなたはフランスに興味があるので、パリを選ぶでしょう。」と書かれている。次のお客さんに紙片を開いてもらうと、「あなたはアメリカに興味があるので、ニューヨークを選ぶでしょう。」と書かれている。演者が紙片を開くと、「最初のお客さんがパリ、次のお客さんがニューヨーク、そしてあなたはシドニーを選ぶでしょう。」と書かれており、パスポートを調べると、シドニー行きの航空券が出てくる。

[3]「みなさんは、パソコンのパスワードはどのように決めていらっしゃいますか?私はランダムに決めることにしています。」と言って、お客さんにデックをカットしてもらう。カットしたところから6枚のカードをめくっていき6桁の数字をつくる。(10以上のカードが出たら、お客さんの判断で0か9と見なしてもらう。)さらにサイコロを振ってもらい、出た目の数と最初の6桁の数とを掛け合わせてもらう。(電卓を渡して。)テーブル上の黒い袋を示す。中から6桁の数を書いた予言の紙を取り出す。(見やすいようにカード1枚に1つの数字が書かれておりそれらがひもにぶら下がっている。)計算結果と予言は一致している。

[4]J、Q、Kそれぞれ2枚を使ったトリック。Q2枚が2人の女性を現す。2枚のQは演者が持っている。「4人の男性(JとK)のうち1人だけ女性の部屋に行ってしまった。残りの3人は暖かい部屋で寝ました。お客さん、暖かい部屋を作ってもらえますか?」といって、お客さんに両手のひらをあわせてもらう。そこに3枚のカード(JとK)を差し込む。演者は2枚のQを持っているのだが、そこに1枚の黒い絵札(JかK)を加えて一緒にもつことになる。「しばらくすると、2人の女性は安全な大好きなあなたのもとで眠っていました。」といってお客さんに手を開かせると、2枚のQに変わっている。演者の手を開くと4枚のJとKになっている。

[5]お客さん1名に手伝ってもらう。デックから2枚のカードを取り出し、1枚ずつわける。お客さんと演者はそれぞれのカードの表にサインをする。演者のカードを封筒に入れる。これは、半分封筒に入れた状態ではっきりみせた上で、お客さんにカードの端をはじいて完全に封筒の中に押し込んでもらう。さらに、板を取りだし封筒をこれに打ち付ける。(大工さんが使う業務用ホッチキスのようなもので打ち付ける。)お客さんのサインしたカードは裏むきのまま板をのせ、その上に巨大なナットをのせる。「今から人体交換を行います。演者は板に打ち付けられ、女性は箱に入れられ完全にナットで締められました!」などと言って盛り上げる。「特殊効果の火薬を充填します。」といいながら、ナットの中にフラッシュコットンを入れ、フラッシュストリングを導火線のようにコットンに埋める。「さて、観客参加型イリュージョンです。あなたは、点火をする役、あなたは音響さんです。」と言い、最初のお客さんにはライター、次のお客さんには電子音の出るキーホルダーのおもちゃを渡す。フラッシュさせて、ナットと板を取り除くと、お客さんのカードは演者のカードに変わっている。板に打ち付けられた封筒を破ると、中からお客さんがサインしたカードが現れる。お客さんのカードは板に打ち付けられた状態で示される。

感想:

 今回のショー全体をみても、このショーが一番楽しめた。「(有)ひろ・こーぽれーしょん」という会社をなさっているらしく、今回の演技で行ったトリックも会場で販売されていた。(たとえば[3]は「ウロボロス(60万分の1の予言)」というタイトルで3千円で販売されていた。)[1]は大変鮮やかなオープナーであったが、エースが出てきて「はい、おしまい」では身も蓋もないようにも思えた。しかし、不思議であった。[2]はやや冗長であり、しかも道具(パスポートや航空券)がちゃちな印象で感心しなかった。[3]は非常に不思議であり販売しているのを購入してしまった。数理的な原理をうまく使っているのに、全く数理的なものを感じさせない点がすばらしいと思う。演出もよかった。[4]はアイビデオから発売されている「高橋知之 クロースアップカードミラクルズ」の第3巻で解説されている「ホテル ミステリー」ではないかと思われる。1枚のカードを入れ替えるだけで劇的な交換現象が引き起こされるわけで、優秀なトリックであると思う。さらに、よく計算されたトークで盛り上げていくことで素晴らしいショーに仕立て上げられていた。お客さんの手の中で何か変化が起きる、というのも非常に効果的であるということを改めて見せつけられた。驚くほどうけていた。[5]も盛り上がった。DF1枚でこれだけのショーに構成するのは、ひとえに才能のなせるわざであろう。板に打ち付けてしまうという処理方法も、「人体交換」というエクスキューズもあり全く不自然さがない。無駄のない演技というのはこのことであろう。参考にもなり、この演技を見ただけでも「たっぷりと」に参加したかいがあったと思わせるすばらしい内容であった。

(3)栗田研

[1]えにしの糸。2本のウオンドの先それぞれにふさのついた糸がぶらさがっている。片方は短く、片方は長い。短い方を引くと長い方が縮む。「怪しいところはありませんか?」と尋ねる。(お客さんはあまり興味を示さない。)「ステッキを一緒に持っているのは怪しいですね。そうです、糸はつながっているのです。」と言ってウオンドを持っている部分を示すと、その部分に糸が通っており2本の糸は実は長い1本の糸であることがわかる。最初は、有名なおもりを使ったものだろうとたかをくくって見ていたマニアには大変うけていた。

[2]布袋を示す。中にビデオが入っているという。「どういうマジックを演じたらいいのかわからないので、お客さんに決めてもらい、決められた演技のビデオを流しましょう。」などと言って笑わせる。10枚程度のパケットを取り出す。それぞれはブランクカードで「リング」、「シルク」、「ロープ」、などと1枚につき1つのジャンルが書かれている。パケットをそろえて、1枚ずつボトムからトップにカードをまわしていく。「両サイドを持っていますから、フェアーですね?」などと言って笑わせる。お客さんにストップを言ってもらう。その時点でビドルグリップしたままパケットをおこしてボトムカードを見せると、「リング」と書いてある。袋の中のビデオを取り出すと「リング」というラベルが貼ってある。

[3]リングとロープ。お客さんから指輪を借りて行う。ロープに通した指輪が外れる。指の間にロープをからめる。(隣り合う指でロープで作ったループを挟んでいく)絡めたロープ(のループ)にリングが入ってしまう。また、リングが(ループ間を)移動する。リングをロープで縛り、お客さんの指にはめる。ロープをひっぱるとロープはリングから外れ、リングはお客さんの指に残る。「おみやげにどうぞ。」と借りた指輪を他のお客さんにあげようとして笑わせる。

[4]8枚のカードのマジック。(i)8枚のカードの表を見せ、1枚だけ思ってもらう。そのカードを抜いて裏をみるとそれだけ、裏の色が異なっている。その1枚のカードをしまい、別の(他のカードと裏の色が同じ)カードを取り出して8枚にする。(ii)8枚のカードから1枚を選ばせる。(ストップをかけてもらったのだが詳細は不明)裏を見ると、特に変わりはないようである。その他のカードの裏をみると、その7枚の裏の色が変化している。(iii)また8枚のカードを使用する。(ii)からのつながりは不明。カードを置いていきストップをかけてもらう。ストップと言われたカードとその次のカードを2人のお客さんに1枚ずつ覚えてもらう。パケットを表向きの状態でオーストラリアンカウント(ダウンアンダー)をしてもらう。(この後何をしたか不明だが、ダウンアンダーで4枚のカードをテーブルに置いてもらったような気もする。)テーブルの上には4枚ずつのパケットが2組、フェイスアップの状態で置いてある。それぞれのパケットに1枚ずつお客さんの覚えたカードが入っていることを確認してもらう。そして、その選ばれたカードだけ、他の3枚とバックの色が違う。(片方のパックは赤裏3枚に青裏1枚、もう片方のパックは青裏3枚に赤裏1枚という具合。)

[5]デックを広げ、1枚のカードに(裏のまま)触れてもらう。そのカードを見て覚えてもらい、デックに返してもらう。カードをトップから1枚ずつ裏向きの状態でボトムにまわしていく。カードを選んでもらったお客さんにストップと言ってもらう。(「裏の模様は微妙に違う。自分の取ったカードは潜在意識が裏模様も記憶していて自分のカードが見えたらひらめくはずだ」などと説明する。)ストップと言われたときのカードを見ると、まさにお客さんのカードであった。(お客さんが、演者の意図をくみきれず、2枚目当たりでストップといったため、もう一度カードをそろえて、もう一度ストップと言ってもらい、同じカードを出して見せるというハプニングがあった。)

感想:

 リングとロープの演技が素晴らしかった。はっきりとしたイフェクトを引き起こすために高度なテクニックを駆使しているのに、それを全く感じさせない点で、一般のお客さんにはまさにミラクルとしか思えない演技。11月14日に行われたマーク・デ・スーザ氏の特別レクチャーで解説された。[4]は、現象が面白いうえに、手順が複雑でありマニアを唸らせる演技であった。

(4)二川滋夫

[1]ポーカーデモンストレーション(ii)の部分はPOKER PALMSHIFTというマジックで、マジックハウスから1999年10月16日に発行された「カードマジックV」(二川滋夫著)に詳細な解説が書かれている。(問い合わせ先:マジックハウス・045-324-0662)ギャンブラーの話。立派なギャンブラーになるためには、相手の心理をコントロール出来ること、高度な技術を習得すること、の2つが大切である。この2つについて、実演してみましょう、ということで演技が始められる。(i)メキシカンポーカー。10枚のカードを取り出す。そのうち2枚を裏のままテーブルにおき、お客さんに好きな方をとってもらう。次々に2枚ずつテーブルにおいていき、相手に相手自身のカードや演者のカードを選ばせる。(この当たりの手順はやや複雑な印象を与え、フェアーとは言い難い。)5枚ずつカードを持ったら、相手のカードをまずみる。フルハウスである。演者のカードはストレートフラッシュであり、演者が勝つ。これは演者が相手の心をコントロールしているからだという説明がつく。(ii)技について。ラスベガスの年老いたギャンブラーのもとに2人の弟子が尋ねてくるという話。「クラブ4枚とダイヤのキング1枚の手を配られたとき、おまえたちならどうする?」という師の質問に、2人の弟子が答えるという形をとる。一人目の弟子は、怪しげな手つきで2枚のカードを交換して、フルハウスを出してみせる。2日の弟子はさすが一番弟子というだけあって、さらに上手に1枚のカードを交換するだけで、10のフォー・カードを出してみせる。(「その弟子とは私のことです。」などと酔狂な発言まで飛び出したりした。)しかし、5枚目のもち札をみせると、これまた10のカードであり、つまり10のカードが5枚あることとなりせっかくの技が台無しになってしまう。弟子2人は、師に「先生も見せて下さい」とせがむ。「師は、『わしはもう目もよくみえない、このとおり手も震える・・・もう出来ないよ。』と答えました。・・・なんだか演技に真実味が加わってきましたが・・・」などと、二川さんはお客さんを笑わせる。1枚のカードを交換した後、もち札を1枚ずつテーブルに配っていくと、ロイヤルストレートフラッシュとなっている。

[2]ひもと指輪。2度ひもに通った指輪をひもから外してみせる。

[3]コインボックス。3枚の銀貨を入れてこぶしの上に置くと、コインはボックスと手を貫通したのか、手のひらから落ちる。3枚のコインが次々に銅貨、中国の穴あきコインに変化する。「このコインボックスには秘密の隠し場所もあるのです。」と言う。するとコインボックスから大きな中国のコインが4枚じゃらじゃらと音をたててテーブルの上に落ちる。

[4]「宣伝」と前置きしてからの演技。予言のカードをお客さんに渡す。デックをリフルしていき、ストップをかけてもらう。ストップをかけられたところのカードをみると、ダイヤの7である。予言カードを表にするとジョーカーである。「ジョーカーはダイヤの7の変わりにもなります。」という。それからちょっと間を空けて「実は、裏の模様を予言したのです。」と言って、デックをリボンスプレッドすると、バックは1枚1枚全部違う模様である。(「レインボーデック」という名前で発売中。問い合わせ先は上記。)

感想:

 ポーカーデモンストレーションは、マニア中心の今回のような席で演ずるのにはもってこいのトリックであり、手順も長く複雑ではあるが、その分見ごたえがあった。ただ、特に日本において一般のお客さんに見せるのにこれほど不適切なカードマジックもない。文化の差とはいえ残念な限りである。[2]は、くつひもくらいのひもで、両端が堅いものを使用していた。片方の端を巧みにリングに通すことで操作していたようにも思えたが、一瞬自分の目を疑うほど鮮やかな現象であった。[3]も現象が明快で不思議なものであった。最後のジャンボコインの出現も不思議で迫力もあり、どきっとさせられた。二川さんはいったい手に何枚コインをパームしているのでしょうという冗談も出るほどであった。

(5)木本秀和

 一番最初に荒井氏から紹介があった。1998年S.A.M. Japan東京大会のクロースアップマジックコンテストでグランプリ受賞、同時にボブ・リトル賞、マジックランド賞、日本奇術協会賞も受賞され、シンシナチで行われたS.A.M.のクロースアップショーにゲスト出演をも果たしたとのこと。今年の厚川賞にも参加された、現在のクロースアップマジック界の寵児的存在。

[1]空手コインルーティン(Curtis Kamの手順):「私は、指が白くて細いのでひ弱そうに見えるかも知れませんが、空手をやっていたのですよ。」と言ってショーが始まる。コインを投げて、右手をコインにぶつけるとコインが人差し指に突き刺さっている。(コインに穴が空いている。)「冗談です。」

[2]指輪とコインのルーティン(Curtis Kamの手順):指輪を右の人差し指の先に引っかけてシンブル。(アラジンと魔法のランプの話をしながら、指輪には魔法の力があるのだと説明する。)ウオンドを取りだしウオンドの説明をする。3枚のコイン(銀貨)をウオンドの魔法で取り出す。コインアクロス(3枚のコインの移動現象)。ワイルドコイン(3枚のコインが1枚ずつ中国のコインに変化する)。中国のコインが1枚ずつ空中に消える。「今、3枚のコインはこの辺にあるんですよ。」と空中をさす。ウオンドでその辺りにあるというコインをたたくと確かに「コツンコツン」と音がする。1枚ずつ空中のコインをつまむと確かにコインが現れる(ハンギングコイン)。最後の1個のコインは目の前で指輪に変化する。(その指輪は左の薬指にひっかかっている。)3枚のコインがカードケースに1枚ずつ飛行する。「銀貨には鷲の絵が描いてあるのでもともと空を飛ぶのが大好きなんですよ。」と説明する。最後にカードケースからジャンボコインが出てくる。ジャンボコイン1枚で出現・消失現象。

[3]カラーチェンジングトライアンフ:デックからカードを1枚とってもらう。取ったカードに4種類のシールから1枚選んで貼ってもらう。(直径2センチくらいの丸いカラーシール)カードはデックに戻してもらう。デックはカットして、半分裏、半分表にした状態でリフルシャッフルする。おまじないをかけると、デックは瞬時にして全て表向きとなり、リボンスプレッドすると、お客さんの選んだシールつきカードだけが裏になっている。そのカードを抜き出し、確かにお客さんの選んだカードであることを確認してもらう。さらに、リボンスプレッドしてあるデックを裏向きにすると、1枚1枚全て異なった裏模様のカードになっている。

感想:

 全体に厚川賞のときよりも見ごたえがあった。コインのルーティンのうちの前半は全てCurtis Kam氏のルーティンということになる。Curtis Kam氏は、1960年生まれで10代の頃よりマジックを勉強しているハワイなどで活躍しているセミプロのクロースアップマジシャンである。木本氏は1998年にハワイで彼と会って指導を受けたとのこと。尚、このルーティンは、"PALMS OPF STEEL"というCurtis Kam氏のビデオ(3巻組になるのだそうだが、いまのところ第1巻しかでていない模様)で解説されているとのこと。また、コインのルーティンのうちの後半で、コインがカードケースに飛行して行くところ以降のルーティン(C.F.C.=Coin Flight to Cardcase)はマジックハウス誌の第10号に解説されている、木本秀和氏ご本人のオリジナルである。立って演技出来るように多少工夫を加えられたとのこと。現象もはっきりしていて飽きさせない工夫がみられ、完成度が高いコインマジックのルーティンとして高く評価できる。[3]はかなり難しい技法を使っていると思われるけれど、難しいことをやっていると思わせない、流れるような演技で白眉。木本氏ご本人に伺ったところ、Larry Jenningsのトライアンフを無理やりカラーチェンジングになるようにしたものだそうだ。コインマジック1つ、カードマジック1つというシンプルな構成が大変スマートであって、かえって演技全体が印象に残った。手順に複雑な手続きがない点にセンスが光っている。一般のお客さんも十分楽しめるよいショーであると同時にマニアが見ても非常に勉強になるハンドリングが多かった。今後の活躍に期待したい注目の若手マジシャンである。

(6)ゆうきとも(高橋知之)

[1]カードをテーブルに置いておく。パントマイムで10円玉、50円玉、100円玉を示す。もちろんお客さんには見えない。「2枚お取り下さい。何を取られましたか?・・・10円と50円ですか。それではそれはおみやげにお持ち帰り下さい。さて、テーブルの上の100円玉を投げて下さい。それを左手の甲で受けて上から右手でカバーして下さい。裏か、表かを当てます。・・・はい、それでは右手をどけて、100円玉を見て下さい!裏表はわかりますか?100と書いてあるのが裏ですよ。・・・裏ですか?表ですか?」お客さんは「表!」と答える。テーブルに置いておいたカードを見ると「あなたは100円を投げて表を出す。」と書いてある。非常に不思議であった。これと全く同一かはわからないが、L&L PUBLISHINGのビデオ、"MAX MAVEN'S VIDEOMIND" (PHASE TWO: CLOSE=UP MENTALISM)の中で、"POSITIVE NEGATIVE"として解説がある。

[2]50セント銀貨3枚とチャイニーズコイン1枚のルーティン。両手のコインの移動現象。「4枚ではタネがわからないだろうから、2枚でやりましょう。」と言い、1〜10までカウントしながら、1枚ずつ両手にコインを握ったはずなのに、気がつくと右手に2枚のコインが握られている。ハンカチの中に銀貨を入れ、手の中にチャイニーズコインを握る。手の中のコインは消えて、ハンカチの中からはジャンボチャイニーズコインが出現する。銀貨は財布に戻っている。さらにもう一度ハンカチからジャンボコインが出てきたはずであるが、詳細は不明。

[3]1〜50までで、好きな数を言ってもらう。手元のプラスティックカードの裏側に何かサインペンで書く。(ホワイトボードのように)カードの表側には1〜50の数字が細かく書かれている。その中の45に丸印をつける。裏に何が書かれているかはわからない。とてもフェアーに、デックのトップから1枚ずつ45枚数えてテーブルに置いていく。そして45枚目のカードをひっくり返す。クラブの9である。プラスティックカードを示すと、確かにクラブのマークと数字の9が描かれている。

[4]伸縮ロープ。3本の長さの違うロープ(赤のアクリル素材のロープ)が同じ長さになり、元通りのばらばらの長さに戻る。非常にはっきりと示しながら行い、不思議であった。また、最も長いロープと最も短いロープが輪のようにつなぎ、最後にその輪の中に中間の長さのロープが飛び込んだように見え、1本のロープになる。結び目は取れてしまう。

感想:

 コイン、カード、ロープ全て不思議であった。[1]は「表裏一体」という高橋知之氏ご自身のオリジナル作品でありフォーサイト(03-3461-1663)にて発売されているようである。[3]も同所で発売されている「新スパークルアイ」(庄司敬仁考案、高橋知之改案)かそれに類したものであろう。[2]はやや手順が込み入っており、最後の演者ということもあり注意深く見ることができなくて残念であった。[4]は現象が非常にはっきりしておりおもしろかった。さすが日本を代表するクロースアップマジシャンであるという思いで演技を見せていただき、十二分に堪能することが出来た。

総括:

 会場の関係もあるのだろうが、同じフロアーで5人の演者が同時にショーを行うというのは無理があるのではないか?お客さんの拍手や笑い声、演者の声などがもろに聞こえて、見る方も演ずる方もやりにくいのではないか?また、ほとんどの演者が商品や雑誌の宣伝をショーに織り込んでいた。純粋にショーを楽しむための会ではないのなら、あらかじめその趣旨を明示しておくべきだと思う。もちろん、私を含めてマニアの間にも新しいたねや技法の発表を歓迎するムードも強く、勢い、いかに見せるかよりも、何をみせるか、という点に関心の焦点がいきがちであるが、今後は「いかに見せるか」という方法論にもっと軸足を置いたショーが行われるとおもしろいのではないか。もっと言えば、技術としてのマジックではなく、芸としてのマジックをもっと楽しめる機会があればいいのだがと思ってしまうのだ。演技全体を通して、演目の偏り(カード・コインはいいとしても、「指輪とロープ」のようなものが6人中3人に演じられるというのはどうか?)が目に付き、ユーモアが少なかったように思う。少なくとも演目については、事前調整が絶対必要で、最低限のショーの構成・演出は責任者が手がけるべきである。同じようなことをする人がいるのだったら、自分は違うことをやって見せたのに・・・と思った出演者もいたわけで、あれでは出演者に対しても失礼である。しかし、現時点のクロースアップマジックの現状が認識できたという点では有意義な会であった。また、この会の前後には、NIFTYマジックフォーラム(FMAGIC)の恒例のオフも開催された。私は「後オフ」のみに参加させて頂いたが、意見交換があったり、様々なマジックが披露されレクチャーまで臨時開催されたりして、これまた有意義であった。特にカードの優秀なセルフワーキングトリックが2人の方に紹介されたので、これは後ほどしっかり考察したいと思う。

謝辞:

 第二弾発表の場を与えて下さいました中村安夫さんに感謝を致します。今回は何名かの方から前もってアドバイスを頂きました。ありがとうございました。また、特に、演者でもある木本秀和さんにはレポートのあり方に関するご意見とともに、ご自分の演技について詳細な解説をして頂きました。マジックを大切にしていこう、という気持ちがあれば互いの考え方に温度差があっても、暖かい気持ちでエールの交換ができるものだとしみじみと感じました。木本さん本当にありがとうございました。そしてなによりも、私の稚拙なレポートを丁寧に読んで下さった他ならぬあなたに感謝致します。尚、本文の全ての責任が筆者田代茂にあることを改めて申し添えておきます。皆様のご意見・ご感想をお待ちしております。 

1999年12月1日 田 代  茂
(1999年12月2日 加筆修正)


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Update: 1999/12/2