Dr. Tashiro のマジックレポート (No.5)

横浜マジカルグループ
第38回マジックフェスティバル

 日時:2001年2月18日 13:30開場 14:00開演
 会場:横浜市教育文化センターホール


はじめに

 第38回マジックフェスティバルは、24節気の1つ、草木の芽が出始めるといわれる「雨水」にあたるよき日に開催された。実は前日より日本奇術会により熱海・水葉亭にて第46回全国奇術愛好家懇親会が開催されており、渚晴彦氏、二川滋夫氏ら、多くの方々が熱海終了後こちらの会場に駆けつけることとなり、私も同様、熱海から参加させて頂いた。

 今回は、榊原茂会長、及び中村安夫氏のご厚意により、発表会終了後の反省会にも参加させて頂き、皆さんの演技についてより深く考察する機会を与えて頂いた。舞台監督の植木將一氏による解説も興味深く聞かせて頂いた。今回は会場の都合でリハーサルが十分に出来なかったこと、音響のコンピューターによる管理を一部試みられたこと、出演者が2名都合により出演をキャンセルしてしまったことなど、これまでと条件も異なっていたことがよくわかった。しかし、ステージを見る限り、ショーの「品質」に昨年と大きな変化が感じられなかったことは、YMGの底力を見せ付ける結果となった。

 実際、以下に述べる通りそれぞれの演技も全体のショーとしての構成もきわめて高度であった。特に演技と演技のつなぎ目が暗転だけに頼ることなく、中幕をよく活用され大変スムースであった。観客もほぼ満席であり、著名なプロマジシャンも観覧に来ておられにぎやかな楽しいムードであった。観客も一般のお客さんとマジシャンとの比率があまり偏ることのないように配慮されているとのことで、これは会場のムードづくりには大切なことであるとあらためて感心させられた。

 今回のショーでは高齢者の方々が実に品よく演技されていることが特に印象深かった。これは趣味としてマジックをしている全ての方々に対しての素晴らしいお手本であったと思う。ただ一方で思うことは、若い世代や子供さんもYMGに積極的に参加され、世代縦断的なムードが形成されるとさらに楽しいものになるのではないかということ。ショーの途中、司会者からもYMGに参加しませんか、というメッセージはあったものの積極的な会員発掘の意欲が感じられなかったのは残念なことである。プログラムの一部に活動のPRをするなど、さらに前向きな取り組みを期待したい。

スティングのコメント:

昨年に続いて、田代茂さんから詳細なレポートをお寄せいただき、改めて感謝いたします。田代さんは、海外や国内のコンベンションや発表会など多くのマジックショーを精力的にご覧になっており、より一段と深みのあるレポートを仕上げられました。

プロローグ

プロローグ

(鳥海 正邦、中村 安夫、関水 佳郎)

会員3人によるリレーマジック。3人が舞台に並んでいる。(下手第一演者、中央第二演者、上手第三演者)

(1)第一演者:A5大の緑色の紙を数枚あらためる。第二演者:同様な黄色の紙をあらためる。第三演者:同様な青い紙をあらためる。

(2)第一演者:数枚の紙がつながって1枚の大きな紙になったことを示す。続いて第二演者、第三演者もそれぞれ大きな紙にして見せる。

(3)第一演者:大きな紙をさらに倍の大きさにしてみせる。(倍の大きさの紙が2つに折ってあったものだったということがわかる。)続いて第二演者、第三演者もそれぞれ倍の大きさの紙にして見せる。

(4)第一演者:紙を裏返すとYの文字が書かれている。続いて第二演者、第三演者も紙をひっくり返すと、それぞれMとGの文字が書かれている。

感想:

 反省会のとき、他の参加者からもご指摘があったが、最初に示した紙の枚数とつながってできた紙の大きさが論理的に関連していないことはやや気になった。しかしオープニングアクトであることを考えれば、まあいいのではないか。

 演者から演者へ引き継ぐときの演技がややぎこちなかった。スポットライトが次の演者を追いかけていくという演出がとられたが、これも反省会で指摘があったように、演者は1歩前に出て演技をし演技が終われば、次の演者に「はい、どうぞ!」というようなしぐさをしてつなげていった方が見ていて気持ちよかったのではないか。

 それでも、YMGの文字が並ぶと会場がざわめき、お祭りムードが盛り上がってきたように感じたので、プロローグとしての役割は十分果たしたといえる。関水氏は昨年に続いて2回目のプロローグでの出演。

スティングのコメント:

プロローグは新入会員によるリレーマジックというのがYMG恒例のスタイルですが、今回は都合により、出演予定のなかった3人が務めることになりました。用具の製作は司会の吉田靖さんが苦心されました。

第1部

1.銀の輝き (江黒 美代)

 テーブルに扁平な箱が置いてあり、そこから2本のリングを取り出す。2本のリングの扱い。さらにもう1本追加して3本の扱い。肘に1本、左右の手で1本ずつ持った状態から3つのリングをつなげ、最後に全てをバラバラにしてしまう。リングを再び箱に戻して、箱の蓋を静かに閉じる。

感想:

 リングを慈しむように取り扱う姿は、演者の人間性さえにじみ出ているようで、感激した。最後に静かに箱に戻しそっと蓋を閉じて一礼して演技を終わるところも気品があった。演技自体も、姿勢がよく、見せ方も体の向きを適宜変えておられ表情のあるものとなった。間のとりかたも適当であり、素晴らしい演技であった。

スティングのコメント:

この3本リングは、会員の鈴木昭弘さんのオリジナル手順です。江黒さんは熱心に練習に取り組まれ、本番では最高の演技に仕上げられたと思います。

2.赤と碧 (植木 將一)

(1)赤いバラを一輪示す。赤と緑のシルクの出現。
(2)緑のシルクの対角線を左右の手で持つと、シルクの中央でバラが浮遊する。
(3)赤いシルクから赤いボールの出現。
(4)緑のシルクから緑のボールの出現。(テーブルにはワイングラスが2つ伏せておいてある。それぞれのボールはグラスの「足」の部分に置き、同じ色のシルクをグラスの「脚」の部分にかけておく。)
(5)緑のボールを取り上げ、緑のシルクで包む。グラスをひっくり返し、包んだボールをグラスの中に入れる。
(6)赤いボールも同様に赤いシルクで包み、グラスの中に入れる。
(7)緑のシルクを取ると、中のボールは赤に変化している。
(8)赤いシルクを取ると、中のボールは緑に変化している。
(9)2枚のシルクから、赤、緑のシルクの切れ端が無数に溢れ出す。

感想:

 グラスを用いたボールのディスプレーが美しかったが、今回のような大舞台で演じるにはやや無理があったのではないか。むしろクロースアップに近い環境で見せて頂ければ、もっと素晴らしかったのではないかと思った。ルーティンの構成や個々のアクトは完璧で大変参考になるものであった。

スティングのコメント:

グラスとシルクとボールの組み合わせは、視覚的にも美しい構図となっていました。手順構成・演技は植木さんならではの繊細でスマートな世界が表現されていました。

3.川の流れのように (宮下 賢一、宮下 八恵子)

(1)吹雪ハンカチ
(2)奥様が中華セイロ大の2本の筒をあらためる。(紫色に金の模様の筒と、ベージュに宝石が入った筒で、美しい。)
(3)ご主人が新聞の折込のチラシを破ってクス玉にする。
(4)奥様が筒からクス玉を取り出す。
(5)ご主人が赤いシルクを振り出し、続いて黄色と緑のシルクが次々につながって現れる。更に3枚のシルクがYの字状につながり、また3枚が並んだ状態で(対角線で)つながったりする。(6)奥様が筒から5枚のシルクを取り出す。さらにご主人の使った3枚のシルクとあわせて、中からファンテンシルク。
(7)奥様が筒からプラスチック製の蛇のおもちゃを取り出す。ご主人が蛇の口元に指を出し、蛇をからかってみせる。奥様は蛇を生きているかのように操ってみせる。(会場から笑い声。)
(8)蛇を布の袋にいれて袋を2つに裂くと黄色いシルクが現れる。
(9)筒から壷の出現。ご主人が持ったバケツに奥様が壷の中の水をあけてみせる。

感想:

 昨年はお孫さんと3人でのご出演であったが、今年も明るくにぎやかなステージであった。ご主人が84歳というから本当に驚いてしまう。道具が大変美しく、見ていて楽しい。奥様がファンテンシルクを見せる際、体の向きを変えながら美しく見せたところまでは大変よかったが、出てしまったら安心したのか、ファンテンシルクを鷲掴みにして捨てバックに入れてしまった点は残念。蛇のおもちゃは確かに茶目っ気もあり愉快だがやや安っぽい印象があるので、子供会などで見せるにはいいかもしれないが、こういった舞台では別のものを用いた方が舞台栄えするのではないか?昨年よりも構成がしっかりしていて、よい演技であった。ご主人のされたシルクの手順も最近はあまり見かけないけれど、工夫によっては十分蘇るよい手品であるとあらためて思った。

スティングのコメント:

宮下さんご夫婦は毎年趣向を凝らした作品で、客席をほのぼのとした雰囲気に変えています。社会人クラブの発表会では欠かせない存在になっています。

4.ドキドキの初舞台 (金井 幸臣)

 手持ちのお盆にようなテーブルに2枚の板をたて、その間にはさんだジャンボカードが消えてしまう、というもの。お盆にかかっていたカーテンがとれてタネがばれてしまうが、もう一度やると、ジャンボカードが完全に消えてしまうという有名なサカートリック。ファントムカードという名で知られているらしい。

感想:

 低くBGMをかけながらのおしゃべりマジックで、とても初舞台とは思えない堂々としたものであった。「YMG特製の魔法の粉をかけます。」などと、楽しい会話で会場を沸かせた。ただ、ジャンボカードを板に挟んでから完全に消してしまうまでの時間が長すぎるので、「カードを板に挟んだ」という印象が薄れてしまいがちなのではないか?従って前半はもたもたしてやった方が芸として面白いが、後半はテキパキやった方がマジックとしての不思議さ・鮮やかさが観客に強く印象付けられ、メリハリの利いた演技になるのではないだろうか?

スティングのコメント:

初舞台で単独出演というプレッシャーを吹き飛ばし、楽しいステージとなりました。セリフについては、リハーサルを重ねるごとに改良を加え、練りに練ったものに仕上がりました。

5.白いスポット (鈴木 正子)

(1)白いB4大の封筒の中から同じ位の大きさの黒いパネルを取り出す。黒いパネルには直径5センチくらいの白い丸(スポット)が横に3つ並んで描かれている。このスポットをはがしてテーブルに置く。パネルは再び封筒に入れて、テーブル上に立てかけておく。
(2)ピンクのシルクを手にかけて、シルクの上からスポットを持たせる。この状態でスポットを消してしまう。
(3)封筒から黒いパネルを取り出すと、白いスポットは元通り黒いパネル上に並んでいる。
(4)パネルを一振りすると、3つの白いスポットは赤、黄、緑の3色にそれぞれ変化する。
(5)スポットに手を触れるとそれぞれがシルクとなり、シルクを取り出したあとは丸い窓になっている。(黒いパネルに3つの丸い穴が並んでいる状態となる。それぞれのシルクは完全に取出しのではなく、穴に通してかけた状態にしておく。)
(6)中央のスポットから出現した黄色いシルクを引き出して、手の中で消してしまう。
(7)黒いパネルにかかっている2枚のシルクのうちの1枚を引っ張り出すと、黄色いシルクが中央に結ばれた状態で3枚のシルクがつながってしまう。
(8)黒い布製の袋を示し、最初に用いたピンクのシルクと、つながった3枚のシルクを中に入れる。袋がカラフルな大きなスカーフに変化する。

感想:

 昨年はご夫婦でタンバリンの演技をされたが今年はソロでの演技。手品として面白く、全体の構成もよい。途中ややたどたどしい部分もあったので、今後も流れるような演技をめざされれば、さらに一味も二味も違った素晴らしいステージになるだろう。

スティングのコメント:

作品のイメージと音楽がよく合い、上品な演技を今年も見せてくれました。フィニッシュの大きなスカーフの出現はいつもながら鮮やかです。

6.赤いゴースト (植松 正之)

(1)手に持った赤いシルクが突然ステージ上を飛び回る。
(2)カードマニピュレーション(ファンプロダクション、5枚カード、ファンプロダクション。)。
(3)1本のケーンが3本に分裂する。
(4)ファンプロダクションに引き続きケーンの分裂。
(5)合計4本のケーンを1本ずつ捨てバックに入れる。
(6)赤いシルクの結び解け。
(7)赤いシルクでなでると白いケーンが赤くなる。さらに赤いカードファンの出現。
(8)ファンを捨てると、再びファンが出現する。ファンプロダクション。
(9)赤いケーンが赤いシルクに変わりさらに赤い投げテープが出現する。

感想:

 昨年のコインマニピュレーションに引き続き、今回はカードとケーン。マジック関係者からも高く評価されていた。単調になりがちなカードマニピュレーションにケーンやシルクのアクトを織り込むことで、ぐいぐいと観客を引っ張る演技となった。1つの頂点ともいえる内容で、私たちにとって最適なお手本であるといえる。特にケーンの扱いなど、「動的」な要素を今後いかにうまく取り入れていくかで、さらにショーアップされた演技が期待できそうである。来年に期待したい。

スティングのコメント:

イントロの意表をつくゴーストシルクに続くファンプロダクションの瞬間から客席は、洒落た大人のムードたっぷりの世界に酔いしれました。音楽・衣装・演出・テクニックが心地よくかみあい好評を博したステージとなりました。出現させたケーンを見栄えよく飾るところなど随所に工夫が盛り込まれていた点も見逃せません。

7.パン (須藤登美男)

 「女性で若くてきれいな方にお手伝いをお願いしたいのですが・・・」(客席を見渡す。)「・・・やっぱりやめましょう。」これで客席がドッと沸いた。1人の女性をステージに上げて、腕時計を借りる。時計に赤いビニールテープを巻いて、テープに観客にサインをしてもらう。これを箱に入れて消してしまう。大きな食パンを示し、2つに割る。どちらか1方を選んでもらい、その中から観客の(先ほど消えた)時計を現す。(パンにおまじないをかけると言って、長さ30センチくらいの棒を取り出す。棒の先からするすると銀色のテープが出て、新体操のリボンダンスのような格好でパンにおまじないをかける。)1万円札が大きく印刷されたハンカチのようなものを観客に渡し、「これで時計でも買ってください。」と言って終了。

感想:

 昨年に引き続いてのおしゃべりマジック。今回は観客をステージに上げての演技。ステージに上がった観客の反応がよく、大変楽しいステージになった。パン時計では食べ物であるパンをぞんざいに扱うと、芸自体が下品になるが、ここではパンが大変きれいに取り扱われ、その他の道具もよく整理されてきちんきちんと取り扱われており、品位あるステージとなった。おまじないのかけ方は、あまりにばかばかしいので賛否両論あったが、楽しいものであり、悪くないのではないかと思う。(おもちゃのピストルを取り出してただ一言「パン!」と言ったら面白かろう、という意見も出たりした。(汗))間の取り方などを含め、昨年より格段によい演技となったのではないか?

 最後の観客へのお土産にお札を印刷したハンカチを使うのはやや下品な印象があり、せっかくのステージを台無しにしてしまう恐れがある。また、2つに割ったパンの1つを観客に選んでもらうところでは、マジシャンズチョイスであると思われないように、はっきりと「選んで頂いた方のパンから時計を取り出して見せます。」と宣言した方が手品としての不思議さ・面白さが増すのではないか。(アダチ龍光氏は、天皇陛下に手品を披露したときの話を交えながらそのような言いまわしでやっておられたように記憶しているが。)

スティングのコメント:

 

8.新世紀の翔 (二谷 龍夫)

(1)赤いシルクの振り出し、そこから赤いパラソルが出現する。
(2)もう片方の手から青いパラソルが出現する。
(3)後見の手をパラソルで一瞬隠すと赤・緑のミニパラソルが出現する。
(4)黄色いミニパラソルを2つ出現させる。
(5)赤いシルクから黄色いシルクが振り出される。
(6)2枚のシルクからそれぞれ赤と黄色のミニパラソルが出現する。
(7)胸ポケットから赤いシルクを取り出し中からハトを出現させる。
(8)ハトの小屋に風船を入れてピストルをならすと、ハトが出現する。
(9)空中ハトすくい。
(10)出現したハトを円筒形のカゴに入れ、まわりを布で覆う。カゴの屋根を取り、まわりの布を取るとハトはカゴごと消失してしまっている。

感想:

 前回はプロローグのみの出演であったが、今回はパラソルとハトという豪華なステージを見せて下さった。特に1羽目のハトが出現したときには会場からどよめきが起こった。空中ハトすくいもコミカルな演技でありここだけ少し流れが変わったようにも思ったが、会場からは歓声が上がるほどウケていた。ミニパラソル6本はピラミッド状にディスプレーされ、大きな2本のパラソルも別のスタンドに並べてディスプレーされた。ディスプレーそのものの是非も考えねばならないが、少なくともこのステージではうまくディスプレーされステージに花を添えた。全体にスピード感もあり、一般のお客さんも大いに喜んで下さる素晴らしい演技であった。

9.21世紀 世界はひとつ (中川 清)

(1)「21世紀」と書かれたシルクの振り出し。
(2)赤、白のシルクと、小さな青いシルクを手の中に入れる、紙吹雪をかけておまじないをすると、アメリカの星条旗に変化する。
(3)表が青、裏が白の画用紙をあらためる。コーンにしておまじないをかけると、中からブドウの房が出現し、続いてフランスの国旗が出現する。また、麦の穂が出現し、ドイツの国旗が出現する。
(4)黒い紙を巻いたものを示し(一本筒)、筒の中に、白、赤、緑のシルクを次々に入れていく。筒の一端を吹いて中のシルクを飛ばすと、赤、白、緑の旗に変化している。
(5)2本の四角い筒を示し、あらためる。中から、カナダ、ギリシャ、アラブ、イギリスの旗を続けて取り出す。
(6)BGMが中国の音楽に変わると、筒から中国の壁掛け(爆竹などがぶら下がったもの)に引き続き中国の国旗が出現する。
(7)白いシルクと赤いシルクを示し手の仲に入れると、日章旗になる。
(8)布の袋にこれまで出現させた全ての国旗(テーブルに重ねて置いてあった)を入れて、袋を引き裂いてあけると、国旗が横に3枚、縦に4枚、計12枚つながった大きな布が飛び出す。

感想:

 司会者による祝電の披露(2通は全文紹介、他、5通は名前だけの紹介。)に引き続く第1部のトリ。昨年はシャボン玉をふんだんに用いた楽しいステージを披露して下さった。オープニングはバックライトに演者がシルエットのように浮かび上がるという演出があり、美しかった。テーマ性もあり、手品としても昨年よりも数段わかりやすくうけていた。最後に国旗が全てつながり1つの大きな布になるところでは観客がどよめいた。「いいアイディアだ」という声さえ聞こえた。

 ただ、反省会でも指摘があったが、取り出した国旗をテーブルの上に重ねていくのはあまりよい感じではなかった。後見などを使ってディスプレーするなど、適切な取り扱いをされればさらによかったのではないか。さらに使用しているシルクや国旗がやや小さい印象があった。国旗などは規格もあり難しいだろうが、シルクだけでも大きいものを用いればグッと舞台栄えのするショーになるだろう。ステージ上での動作は優雅であり、全体としてとても楽しい印象となった。

 なお余談だが、日章旗が出る手品は25年前、「天地」というメーカーから「素晴らしき日章旗」という名前で販売されていた。当時としては高い6千円だったと思う。解説書に、「国旗ですから取り扱いにはくれぐれもご注意下さい。」と書いてあり、子供心に国旗への敬虔な感情を覚えたものだった。とんでもないところで、愛国心の教育を受けたものだ。

第2部

10.通いの水 (渡部 サト子)

 緞帳(どんちょう)が降りている段階で、拍子木の音。「若狭の水」の口上が始まると、緞帳が上がる。上手・下手両方にテーブルがセットされており、その上に壷が置いてある。半紙を切って紙テープを作り、左右の壷をつなぎ、下手の壷の水が上手の壷に移るという現象を見せる。最後に紙テープをまるめて手の中でしぼると、水がポタポタ落ちる。

感想:

 昨年の洋装でのシルクマジックに引き続き今年は和装で若狭の水の演技。着物の着付けがきまっており、それだけでもステージに気品が漂った。オープニングの拍子木は音響がよくなかった。拍子木は録音ではなく、スタッフが袖で実際に打ったほうが遥かによいのではないか。演技自体はスッキリとまとまっており、不思議さもよく伝わり、素晴らしいものであった。特に、最後に紙テープを手の中でしぼって水が出るところでは客席にどよめきが起こった。

11.独り楽しむ (中沢 克孝)

 如意独楽。まずはたすきがけをする。続いて、テーブル上の瓢箪を両手で持った布で隠すと、瓢箪の上に独楽が現れ、そこで回っている。再びこの独楽を布で隠すと、独楽は布の上に乗る。演者は両手で布を持ったまま、くるりと1回転したり、独楽を布の端から端へと動かしてみせたりする。布を傾け、独楽が低い方から高い方へ動くという演技も行う。しばらくすると、突然独楽が消え、瓢箪をちょっと布で隠すと、独楽は再び瓢箪の上に戻って回っている。更に、瓢箪の上の独楽を布で一瞬隠すと、独楽は消えている。独楽が瓢箪の中に入った、という思い入れで瓢箪の口に栓をする。たすきを外し演技を終える。

感想:

 昨年はビール瓶のあっさりとした手品を披露されたが今年は大作を堂々たる風格を感じさせながら演じられた。和服をきっちりと着こなされ、なかなか芸にならない「たすきがけ」を美しくこなされた時点で、観客の注意はステージに集中させられた。途中、独楽の動きが緩慢なこともあり、ややくどいような印象もあったが、最後まで観客を引きつけ、楽しく、また、不思議な、理想的なステージであった。如意独楽でしばしば用いられる、いわゆる「ミラクルカーテン」を用いるのではなく、原案通りの仕掛けをあえて用いられた点も、オリジナルを尊重するという精神がにじんでおり、多くの奇術家に示唆を与えるものであった。また、BGMは「剣の舞」を雅楽にしたものを使っておられたようできわめて興味深かった。コンピューターでオリジナルの曲を編集されたのだろうか?様々な面で勉強になるよい演技であった。

12.奇妙なロープ (南  國雄)

(1)1本のロープに大きな結び目を作る。結び目がロープからはずれ、大きなリング状のロープと、短い1本のロープが出来る。
(2)リング状のロープと短いロープが再び溶け合うように1本の長いロープになってしまう。
(3)ロープの中央をハサミで切る。魔法の小瓶を取り出し、魔法の粉をロープにかけると、ロープはつながり1本になる。
(4)ロープの両端を演者のカーマンベルトのところに差し込む。この状態でロープの中央に結び目が出来る。
(5)カーマンベルトに差し込んだロープを再び取り出す。詳細は不明だが、先ほど出来た結び目が外れ、2つのリング状のロープになってしまう。
(6)2つのリング状のロープが1つの大きなリング状のロープになる。
(7)大きくなったリング状のロープを両手で伸ばすような動作をすると、さらにリングは大きくなる。つなぎ目のない、大きなロープのリングであることを示し、演技終了。

感想:

 昨年に引き続いてのロープの演技。昨年と比べて遥かにエンターテイメント性が増した。日々のご努力がはっきりとステージに現れた結果となった。演技にメリハリと変化が出て、観客の注意が演者から離れなかった。最後にロープが伸びていくところも、トリネタとして適切であり、不思議性が強く、客席がどよめくほどであった。途中、カーマンベルトにロープの両端を差し込む辺りの演技がややもたついた印象があり、現象のインパクトが十分アピール出来なかった点は残念。来年の第三弾に是非期待したい。

13.1 to 6 (若山 君代)

(1)1辺が15センチほどの立方体の箱をあらためて、中から赤、黄、緑のシルクを取り出す。
(2)箱に水を入れ、シルクをかける。このまま箱をひっくり返すと、箱の中から箱とほぼ同じ大きさのサイコロが出現する。
(3)シルクから銀のクス玉が出現する。
(4)先ほどの箱を2つつなげたような四角い筒のようなものを示す。真中にしきりの板がささっている。筒の上からサイコロを入れると、サイコロはしきりの板を貫通して下から出てくる。(手のひらの上に筒をのせて演技をするので、上からサイコロを入れた後、筒全体を持ち上げると、貫通したサイコロが手のひらの上にのっているのを示す。)
(5)先ほどの箱から赤い水が出現する。
(6)先ほどの筒をもう一度あらためて、上からサイコロを入れる。再びサイコロはしきり板を貫通して下から出てくる。
(7)詳細不明だが、筒から赤、黒、緑、黄、白、青の計6個のサイコロが出現する。(これをピラミッド状にテーブルの上に積み上げる。)
(8)6個のサイコロに引き続きカラフルなストリーマーが流れ出る。これをケーンで巻き取る。
(9)箱と筒をあらためて、それぞれから1つずつサイコロを出現させる。(最初に出現したサイコロとあわせて3つのサイコロをテーブルにディスプレーする。)

感想:

 昨年はスポンジボールをよく工夫された演出で見せて下さった。今回も箱と筒を使った不思議な手品に挑戦された。箱と筒が大きさやデザインの面で関連性があり、両方を交互に用いることで、単調になりがちなルーティンに一貫性を持たせつつ、バリエーションを加えることに成功された。ストリーマーは巻き取るよりもそのままカスケード状にたらしていかれた方が美しかったかもしれない。トリネタのインパクトが弱かったので、最後にもう一工夫されれば、さらに印象的な演技になったのではないか?

14.赤いハンカチ (鈴木 昭弘)

 旅行が好きで、旅行先で手品をすると喜ばれる。今回は軽井沢で評判の良かった手品をご披露します、といったトークで演技をはじめる。ワンタッチテーブルを取りだし、これを使用する。手の中に赤いシルクを入れていくと、シルクが玉子に変化する。ここで種明かしを行う。もう一度やってみると、今度は本物の玉子になり、銀のカップに割ってみせる。さらに演者がかぶっていた帽子に玉子を入れてしまう。客席に向かって帽子の中身をひっかけようといった動作をすると、帽子の中からは赤いシルクが出てくる。

感想:

 プログラムNo.5 の女性のご主人。昨年はお2人で1つの演目をされたが、今年はバラバラに演技された。いわゆるクリンククラングと呼ばれる古典的な演目で、これに玉子カップがつなげられた。怪しいところがない、安心して見ていられる演技であり、キャリアと実力を見せつけられた。特に玉子カップの扱い方は勉強になった。カップを帽子の中に入れるのではなく、何気なく帽子の底を見るような動作で帽子をちょっと上に持ち上げるときに、カップが自然に帽子の中に入るのである。古典的なマジックでも、様々な演技の工夫を加えることで、さらに磨きのかかった演技ができるものであると、あらためて思った。帽子の中の玉子が最初の赤いシルクに戻るというのも、よい演出だと思った。

15.ブルーシャッポ (安彦 洋一郎)

 メリケンハット。帽子をあらためた後、突然大量のバネ花が出現する。その後、あらためを繰り返しながら、鞠(5個)、ワンタッチクス玉(3個)、クス玉、紙テープを出現させる。また紙テープの中からマンモスクス玉を出現させる。

感想:

 昨年はハト出しやイリュージョンを手がけられ、大活躍された。今年は演目こそ地味ではあるが、難しい手品でご苦労も多かったのではないか。衣装が水色で、青い帽子が美しく、全体の美術的コーディネートがよかった。紙テープは床に垂らすだけであったが、量感を出す意味でも、またその後にここからクス玉を出す手順の上からも、ケーンなどで巻き取った方がよかったのではないか。メリケンハットも最近はネタを体から取ることが多いが、ここでは従来の方法も生かされており併用されていた。奇術家にも参考になる点がある、よい演技であった。

16.春 燦燦 (丸山 洋子)

(1)ミステリーウオーター。金の筒をあらため、丸いコースターの上にのせる。ここに赤い水を入れる。コースターを外しても水はこぼれない。筒にシルクを通してあらためる。さらに空のグラスを通すと、グラスは赤い水で満たされる。
(2)もう1つのグラスに水を移しかえる。そのままグラスをひっくりかえすと、赤い水が赤いシルクに変化してしまう。
(3)3枚のLPレコードを示す。1枚ずつ色が変化し、赤、黄、緑の色つきLPレコードになってしまう。さらにまた1枚ずつ元通りの黒いレコードに変化する。
(4)長方形の大型の箱で、前面と後面の壁が倒れてたれさがり、四角い枠を通して箱が空であることが十分に示せる、という道具を用いる。箱をあらため、なかからくるくる回る飾り物(クリスマスツリーなどにぶらさげるようなもの。)を2つ出す。さらに箱をあらためて、大きなファンファン(バネで開く平面的なバネ花のようなもので、扇くらいの大きさになる取りだし用具)を2つ、さらに大きなファンファンを1つ出現させる。また箱をあらため、フラワーボックス(透明な箱にバネ花が2つ入っているもの)を3つ出現させる。もう一度箱をあらためたのち、箱ごとひっくり返すと、4色のメタルテープが4本並んで床に流れ出る。

感想:

 昨年はチャイナリングで発表会のトップバッターをつとめられた。昨年のあっさりした印象とは対照的に、今回は大きくスリットの入ったチャイナドレスで妖艶かつ華やかなステージを作り上げられた。反省会でも人気ナンバーワンであった。BGMにはウエスタン調の曲を使っておられた。全体の統一感を考えればもう一工夫あってもよかったかもしれない。LPレコードもプロダクションボックスもご自分で工作されたそうであり、借り物でない、ご自分らしさがあふれる演技となった。本番直前で道具を作り直すなど、予期せぬハプニングもきっちり乗り越えられ、実力が一段階も二段階もアップされたのではないか?

17.場内禁煙 (出田 立郎)

(1)「スモーキングブギ」のBGMとともに登場。1本のタバコの扱い(出現・消失)。
(2)タバコの火が親指に移ったのか、親指が赤く光ったりする。指とタバコの間で火を移しかえるような演技。
(3)ステージ中央やや下手よりに設置されているサイレンが鳴り出す。またこれに前後して「場内は禁煙です」といった内容のアナウンスが流れる。また詳細は不明だが、タバコのプロダクションや「禁煙」と書かれた大きな旗を出現させたりする。
(4)赤いシルクから大きなタバコが出現する。このタバコも「禁煙」の垂れ幕になったりする。
(5)1m以上もあるようなマンモスタバコの出現。(このタバコにも「ノー・スモーキング」などと書かれている。)
(6)詳細不明だがペロペロキャンディーの出現。演者はキャンデーをしゃぶりながら退場。

感想:

 昨年はパネルを使った4つ玉の演技でその工夫にはマニアもうなった。今年も独創的なアイディアでコミカルなムードを出そうとご苦労されたようだった。しかし、準備が間に合わず意図した通りの演技にはならなかった模様。サイレンを演者がリモートコントロールする仕掛けも独自に作られたわけで、演出にもう少し時間をかけられればぐっと面白いステージになったことだろう(タイミングよくオン・オフが出来ていたので。)。また、コメディーマジックの難しさをあらためて見せ付けられる結果となった。プライベートでもお幸せなことがあったとのことで、今後ますますのご活躍が期待できる若手マジシャンである。

18.世紀を越えて (星野 好汪、星野 容子)

(1)後見が毛花の花束をもって登場。演者は花の部分だけを取って布の袋に入れていく。布の袋を裂いて開くと、袋ごと美しいスカーフになってしまう。
(2)スカーフで花がむしられた茎と葉だけの「毛花」を一瞬隠すと、再び花が咲いている。
(3)花を再び摘みとって投げると、花はくるくると回転しながらゆっくりと落下し床にささる。また花が取り去られた茎と葉だけの「毛花」に注目すると、ゆっくりと花が開いていく。
(4)花束が分裂する。
(5)白シルクの振り出し。続いて、赤、白、赤と、計4枚のシルクが現れる。
(6)4枚のシルクから11枚の色とりどりのシルクがつながった状態で出現する。
(7)出現したシルクを集めて中からシルクの旗(扇の骨のように金属製の針金が7〜8本カナメで止められており、その骨の1つ1つにシルクがついている。広げると7〜8本のシルクの旗がずらりと扇状に広がったように見える取りだし用具)を2つ出現させる。
(8)ジグザグ人間。後見はキャビネットに入ると、顔を外に出して笑顔で「バイバイ」と手を振って見せ、会場に和やかな笑いを誘う。無事胴体がつながって後見がキャビネットから登場すると、後見は笑顔で演者の腕をとり演技終了。

感想:

 演技に先立ち司会者よりタイトル「世紀を超えて」についての説明がある。以前お嬢様が後見としてこの発表会に出演されたのは昭和の頃であった。それ以後出演されていないが、今年結婚をされることになり、その記念に再び後見としてステージに立たれることとなった。前世紀と今世紀、2度にわたってお嬢様と共演されるという幸せをタイトルに現したのだということ。マジシャンとしてではなく、お父様としての笑顔が観客の心を打つ忘れられないステージとなった。昨年に引き続き大トリをとられたわけだが、昨年よりもずっと感動的な演技となったのはお嬢様の優しい笑顔によるところも大きい。尚、最後のイリュージョンの見せ方については反省会でやや問題点も指摘された。

フィナーレ

 手拍子にて、上手下手両側から1名ずつ出演者が登場。榊原会長の挨拶で幕となった。最後に会長さんが、上手のお客様、下手のお客様、そうして中央のお客様に礼をするのだが、後ろに控える全出演者に手で合図をしてみなそろって礼をするところは、荘厳な美しさすら感じた。

2001年2月24日 田 代  茂


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Update: 2001/2/26