創立30周年記念

鎌倉マジシャンズクラブ発表会

日時:1996年10月6日(日) 12:00開場 12:30開演 16:30終演 
会場: 鎌倉芸術館(JR大船駅東口下車徒歩7分)
主催:鎌倉マジシャンズクラブ
入場料:無料

Update: 1998/1/3


はじめに

開場3時間前から行列ができ、1時間前には入場整理券がなくなってしまうほどの盛況ぶりでした。
FMAGICで入場できたのは、ダーク秀樹さん、KOBAさん、KUMAさん、ケンケンさん、そして私スティングの5名だけだったようです。
入場できなかったその他の方々、そして全国のFMAGICのみなさんにこのレポートを送ります。


演技

(以下、出演者敬称略)

オープニングマジック    金沢敏行

シルクマジック。ズボンのポケットを使った、20世紀シルク現象。金沢さんは、ここ数年、オープニング演者をつとめています。落ち着いていて、ちょっとスパイスがきいた演技が光っています。

第一部


佐々木慎吾

小学校5年生による「スライディーニの紙玉のコメディー」。
テクニック、おしゃべりとも大人顔負けの演技でした。
非凡なマジックセンスを感じます。まさに、21世紀のスーパースターに成長するかもしれません。

石渡 素子

中華風マジック。動きのなめらかさは感じましたが、肝心のマジックの現象がはっきりしませんでした。

磯部 重光

軽快なシャカタクのBGMにのって登場。
パラソルの演技でしたが、メリハリがありませんでした。

田村 純子

レコードの色変わりからロープを使っての「シックスループ」。
初舞台を無難にこなしました。

野村 好一

ゾンビボール。フィニッシュで、ボールを消失させてから、布からクス玉を出しましたが、メタリックテープのストリーマで終わった方が良いと感じました。

志水 桂造

メリケンハット。

根本 尚

金属製のお椀から水が何度も出現する。
この道具は、珍しいと思いました。

栗田 研

ステージ初挑戦ということで、何を演じるか興味津々でしたが、「コーンとボール」でした。
印象としては演技が固く、現象も分かりにくい気がしました。600席という広い会場では、現象をシンプルにし、ステージを広く使って観客にアピールするというポリシーが大事だと思います。その点、今回のコーンとボールは、もともと地味な演目であり、相当な演技力が要求されるため、初舞台の演目としては不利だったような気がします。

手順構成については、チェシャ猫さん流の工夫のあとが見られましたが、コーンとボールの基本的現象が表現されていないため観客の反応は、いまひとつでした。また途中で入れたカメレオンシルク現象は、手順上無理があったように思います。

高松 正誠

2本の筒からのボトルプロダクション、最後にファウンテンシルク。

ブラック嶋田(ゲスト)

今回、会場を最も沸かしたのは、この人でした。私も、これまでブラック嶋田師の演技を何度も見ていますが、今回のステージはプロの凄さをまざまざと見せつけられました。
上手から登場して、舞台中央でタバコを一服して、客席を見回す。この10秒ほどの間に、会場はブラック嶋田の独特の世界に引きずりこまれてしまいました。
お得意のタバコプロダクションに加えて、しゃぼん玉、そしてトムマリカのタバコを何本も何本も口の中にいれて飲み込んでしまうというアクトをまじえた新しい手順。その間、口からのタバコの出現、カードの出現のたびに、観客は大爆笑。
ステージを広く使う演技力、観客を沸かせる間のとり方、海外の一流マジシャンの演技を自分の手順に組み入れる工夫など、私たちアマチュアマジシャンには多くのことを教えてくれました。

スガヤ幸一(ゲスト)

お馴染みの和風ゾンビの演技でした。
この人の演技も何度も見ていますが、今回が一番良かったと思います。手順の中の冗長な部分を省き、クライマックスの現象を最大限に引き立てるような構成になり、オリジナルとして完成の域に達した感じです。また、女性のお面が巧みに動くところなど芸の細かさに感心しました。
  
以上で第一部は終了。ちょうど1時間経過。
休憩なしに、第二部の開幕です。


第二部

河合 勝(ゲスト)

今回、私のお目当ては、この河合勝さんのミリオンカードでした。
私が、氏の演技を初めて見たのは、18年前の夏、日本テレビ開局25周年記念'78世界奇術大賞(ホテルオークラ)のステージでした。この大会は、リチャードロス、スライディニー、ブルースサーボン、アリボンゴ、島田晴夫など、当時の、ステージおよびクロースアップの超一流マジシャンが一同に会するという夢のようなイベントでした。そうそう、後年のMr.?マリックが、松尾昭としてクロースアップショーを演じるという一幕もありました。また、若き日の福留アナ(日本テレビ)も出ていましたね。

さて、河合勝さんのミリオンカードの演技ですが、とにかく美しいという一語に尽きます。かつて、故高木重朗さんは、「ガラスの城のような美しさと輝きを持っている」と評したことがありました。今回のステージでは、この美しさに、ゆったりとした円熟味が加わっていました。カードのシングルプロダクションからファンプロクションに移る演技の美しさ。特に、大きく開いたファンを捨てて、次のファンが出現するまでの間合いがなんとも言えません。巨人軍の長嶋監督が松井の打撃を評して、二枚腰のスイングが出来るようになったと言って話題になりましたが、ちょうどあの感じです。私も、ステージでミリオンカードを演じることがあるので、よく分かるのですが、このタメを作れるようになるには、相当な修練を必要とします。また、身体全体の無駄な力が抜けつつも、心地よい緊張感を作り出す、演技力というのも、奇術歴36年という豊富なキャリアに裏打ちされたものでしょう。というわけで、この河合さんの演技を見ることが出来ただけでも、この会場に足を運んだ価値がありました。

ミリオンカードが終わって、舞台は暗転。
しばしの間の後、照明がつくと、そこには、ビリヤードボールを持った河合さんの姿がありました。なんと、カードに続いて四つ玉の演技が始まりました。ミリオンカードと四つ玉という代表的スライハンドを完璧にこなせるマジシャンは、広く世界を見渡しても、なかなか探すのは難しいでしょう。
ただ、残念だったのは、この四つ玉の演技は、もっと狭い会場で近くで見たかった気がします。私の席は後ろの方でしたので、少し現象が見にくく、カラーチェンジの部分などは、効果が弱かったようです。ミリオンカードに比べて、四つ玉は、会場の大きさに影響を受けることを改めて実感しました。

長谷 和幸(ゲスト)

続いての長谷和幸さんは、鎌倉マジシャンズクラブ出身の若きプロマジシャンです。
彼の演技は、これまで何度も見ていますが、その演技スタイルに対して、奇術愛好家の間では、評価が分かれているようです。
私は、以前から彼のマジックを好意的に見ていましたが、今回のステージは、他のゲストマジシャンに比べて、ちょっと精彩を欠いていたように思いました。
最近、加藤英夫さんは、MUM JAPAN誌の中で、「美しい絵が美しい額縁に飾られて提供されるから、美しさがきわだってくるのです。」と述べています。
その意味では、長谷さんにとってこの会場は、大きすぎる額縁なのかもしれません。
演じたのは、お客さんから借りた紙幣の復活でした。

まず、疑問に感じたのは、登場の仕方でした。 BGMの曲が、誤って別の曲が流れてしまうというトラブルがあり、 数分間の中断後、中幕中央から、ドラマティックな雰囲気で彼が登場したのですが、ただ大げさな礼(バウ)をしただけで何もイフェクトが起らなかったのは、拍子抜けの感がありました。

少なくとも彼のトレードマークであるバラのイフェクトなどの演技がないと嫌味な感じを観客に与えるのではないでしょうか。
紙幣の復活のマジック自体は、可もなく不可もなくといった感じでしたが、プロマジシャンの演技という視点でみると、不満な点がありました。それは、舞台上のテーブルの位置でした。
演者とテーブルの距離が相当離れていたため、物を置に何度もテーブルのところまで往復するという無駄な動作が目立ちました。
クラブの発表会等では、演者の意図した位置にテーブルが置かれないケースが多々ありますが、何気なく、テーブルの位置を補正するといった配慮が必要でしょう。

鵜沼 昭子

ライスボール。

小幡 欽信

四角なボックスからのプロダクション。
ニューヨークの街角風な巨大な舞台装飾に驚きました。
後で、巨大な布に描いた絵を天井のバトンから吊り下げていたのに気がつきました。

畠山ミツ子

鳩すくい、人形の家。
鳩すくいは、空中から出したようには見えませんでした。
また、人形の家から出現した、かわいいお孫さんが、一生懸命バレリーナのようなポーズを作っていたのに観客が沸きました。

賀田五十雄

南京玉すだれ。

山崎 裕造

キャンドル。
演技よりも、司会者が紹介した、本業の靴屋さんの話の方が印象に残りました。

小室 博俊

ミリオンカード。
フィニッシュの噴水カードがタイマー起動なのに興味を持ちました。

野口 康二

スクリーンイリュージョン。
本業が大工さんだけあって、見事な道具の仕上がりでした。
このトリックは、ターベルコースにも解説されているため、以前、YMGでも自作したことがあります。そのとき、私は助手を務めたことを思い出しました。

小栗啓三郎

眠れる森の美女という名の宝塚風ストーリーマジックでした。マジックとしては、人体浮揚、衣装替えぐらいでしたが、とにかく、衣装や大道具、小道具が本格的。また、美しい女性と演者のかけあいが爆笑を誘うというわけで、このクラブの名物会員であることは、間違いありません。

以上で、第二部は終了。2時間15分たったところで、
10分間の休憩です。
マジックショーはまだまだ続きます。



第三部

藤山新太郎(ゲスト)

出し物は、和妻「胡蝶の舞」。
古典的な名作ですが、助手を使わず、また一羽の蝶が、二羽になるところにオリジナリティがありました。途中、トラブルがあったようですが、演技がまったく崩れなかったのは流石です。
また、黒子の登場も珍しい光景でした。

田中健一郎

ミリオンシガレット。

井下田はるみ

学生マジック出身の5本リング。
アピールの仕方が単調で、客席の反応はいまひとつでした。

岩崎 義雄

どじょうすくい。
ザルの向きが、逆で不自然だったという評がありました。
また、どじょうの出現が1度きりでしたので、2回に分けてだせないかという気がしました。

川上 クミ

壷と水、シルク&フラワー。
この人の衣装は、はですぎて、出した物がまったく目立たない
という配色ミスがありました。
この場面では、再び巨大なピエロの顔の舞台装飾が使われました。

大谷 隆雄

鉢からのフラワープロダクション。
マントの使い方に、違和感がありました。

坂井 恒之

浪曲マジック。
磁化するセンスと消えるコップ。
声が素晴しかったです。また長髪のカツラのオチが受けました。

古屋 忠夫

オレンジとレモンと卵の有名な手順を演じました。
ただ、あまり感心しないバリエーションの手順でした。

山田 征礼

ビリヤードボール。(四つ玉)
フィニッシュで、曲のアクセントに合わせて、ボールを捨てていくところが洒落ていました。
ちょっと短めの手順でしたが、正統的な品の良い演技でした。

渚  晴彦(ゲスト)

オープニングは、中幕から手だけが出て、ピンスポットの中からシングルカードプロダクションを行うという粋な演出。
そして、鮮やかな鳩のプロダクションをさりげなくつなげた前芸が終わると、客席にシューティグカードを投げ始めました。
このカードを拾った人は、年齢当てができるという特典がつきました。残念ながら、私のところまでは、飛んできませんでした。
次に、中幕が開くと、ステージには、巨大なギロチンが現われました。お客さんを舞台に上げてのお馴染みの大ネタです。
とにかく、この道具は巨大なもので、今まで見たギロチンで最大のもので迫力満点でした。


第四部

引田 天功(特別出演)

何人もの助手が、三角形の板をビラミッドの形に組み合わせると中から、2代目引田天功が登場。続いて、人造人間イリュージョン。
最後は、カパーフィールドも演じたオリガミボックスでした。
人体消失から衣装替えをしての再出現で終わりました。

フィナーレ

今回の出演者が再び、ごあいさつ。
花束贈呈の後、4時間におよぶマジックショーが閉幕しました。


全体的感想


<企画構成>

600席という広い会場が満席になったという点では、今回のマジックショーは大成功だったと思います。しかし、いくつかの点で課題を残したとも言えるでしょう。

(1)入場方法について

例年と違って、今回は当日の先着順に座席指定券を配布する方式がとられました。この結果開場3時間前から行列ができ、1時間前には座席指定券がなくなってしまう状況が発生しました。問題は、この方式が事前に来場者に十分に伝わっていなかったため、多くの人が会場まで足を運びながら、入場出来なかったことです。
今回は、創立30周年記念大会ということで特例かもしれませんが、主催者側には、事前にこの状況を予測し、何らかの対処をして欲しかったと思います。

(2)ゲスト出演について

今回は、著名なプロマジシャンを含む7人のゲストが出演するという、アマチュアの奇術クラブとしては、異例の発表会でした。
一人のマジックファンとしては、とても満足したマジックショーでしたが、会員の方々にとっては、本当によかったんだろうかと気になりました。
クラブにとって創立30周年というのは、素晴しい偉業であり、会員の方々にとって誇りでもあると思います。
しかし、率直に言って、今回の発表会の主役は、明らかにゲスト出演者のみなさんでした。
この結果、公演時間が約4時間にもおよび、また会員の中にも出演出来なかった人もいたのではないかという気がします。

<スタッフ>

(1)司会について

司会を務めたのは、TVでおなじみの久能靖(おもいっきりテレビニュースキャスター)さんでした。久能さんは鎌倉市在住ということで起用されたそうです。
流石、プロの司会者だけあって、ソフトな語り口や観客をリラックスさせる軽いジョークは、長時間のマジックショーの時間を忘れさせる役割を演じたと思います。
また、個々の出演者の紹介でも、事前の準備をしっかりしていることがよくわかるような司会ぶりでした。
ただ、このクラブにはKMCの名司会と呼ばれる山口さんという会員さんがいらっしゃるので、何故山口さんがやらないんだろうという疑問を持ちました。

(2)進行について

司会者がうまく時間をつないでいましたので、あまり気になりませんでしたが、もっとスピードアップ出来ると思います。
例えば、出だしを「登場」ではなく、「板付」に変えるとか、中幕をうまく使い、前の演者が演技している時に、次の演者の道具の準備を終えてしまうという構成上の工夫が考えられます。

(3)音楽について

全般的には良かったと思いますが、長谷さんの時のカセットミスが惜しまれます。

(4)照明について

途中まで気になりませんでしたが、最後の引田天功オンステージの時の照明の色がとてもきれいだったのが印象的でした。
同じ照明設備でも、使い方によって、こうも変わるものかと感心しました。

(5)舞台装飾について

第2部と第3部に使用された天井のバトンから吊り下げた、絵を描いた巨大な布の舞台装飾は見事でした。
絵の内容も本格的なものであり、準備された方々に敬服します。

(6)記念誌について

プログラムと一緒に、「創立30周年記念誌」(72頁)が配布されました。
編集を担当されたのは金沢敏行さんですが、発表会の準備とともにこのような冊子を出版するのは、大変なご苦労だったと思います。
ただし、1点だけ内容に誤りがあると思われる箇所がありましたので指摘させていただきます。
 (30頁)広島奇術クラブ 講師 藤田昇氏の文章の中で、

「(前略)25周年の記念誌を拝見した時先ず感じたのは資料の豊富さと
 その整備の確かさでした。どこのクラブでも発表会の段取りには手を
 焼きますが、それをマニュアル化されたお手並はさすがでした。」

というくだりがありますが、これは、横浜マジカルグループの「YMG発表会マニュアル'93」と混同されている印象を受けます。

以上、長文となりましたが、鎌倉MC発表会レポートをまとめました。

同じ社会人マジッククラブに参加する一員として、鎌倉マジシャンズクラブのご発展を心からお祈り申し上げます。

1996. 10.27 スティング (MHB01374)


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Update: 1998/1/3