Update: 2001/5/27
最初にご紹介するのは、日本を代表する奇術創作家、厚川昌男さんのご意見です。氏は推理小説家「泡坂妻夫」としても有名ですが、「トリック交響曲」(時事通信社1981年)の中で「種明かしのすすめ」という刺激的タイトルの論文を発表しました。
「私は奇術家が種明かしをしないという理由の一つ一つを考えてみた。結論から先に言おう。奇術家が種明かしをしないという理由は何一つない。」
と氏は切り出し、さまざまな理由に対する反論を展開した後で、奇術発展のために「種明かしはすべきである」と主張しています。
しかし、注意深く読み進めると、氏は無条件の種明かしをすすめている訳ではなく、次のような条件を付け加えています。
1.観客がすでにすべてを知っている奇術の種明かしはすべきではない。
2.すぐれた奇術の種以外は種明かしをすべきではない。
3.すでに古くからある奇術の種明かしはすべきではない。
4.新しい奇術で創案者のある奇術は種明かしをしてはいけない。
ここまで読むと、種明かしができる奇術を探すのは、そう簡単ではないことがわかってきます。
そして、氏が最も言いたかったのは、次の一文なのでしょう。
「種明かしをする奇術は無限にある。それはあなた自身の創案した、全く新しい奇術なのである。」
さらに、最後には、こんな文章も付け加えられています。
「私自身のことを言えば、種明かしにたえるような傑作を未開の地から拾ってくることが、実は大変な苦労なのである。たまたま拾い当てた一、二の奇術に関しては、生来の吝嗇も手伝って、なかなか一般の観客には種明かしをする気にはなれない。従ってまだ種明かしの快感を知らないのが、大変残念である。」
出典:「トリック交響曲」(泡坂妻夫著、時事通信社1981年)
(1998/6/.28 中村 安夫)
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Update: 2001/5/27