「マジック種明かし番組」問題

これまでの経緯

Update: 2001/6/11

はじめに

長い歴史を持つマジックという芸能において、タネの秘密というのは、最も基本的な約束事であり、固く固く守られてきました。

しかし、最近、この約束事がいとも簡単に破られるという事例が多発しています。

特徴は、家庭普及率が１００％に近いテレビというメディア（媒体）を通して、マジックの種明かしが行われている点です。

｢種明かし番組｣が成立する背景には、視聴率を取るために手段を選ばない「テレビ局」とそれに迎合する「マジシャン」、そして種を知りたい「視聴者」の存在があります。

テレビにおける「マジック種明かし番組」の問題は、繰り返し起こるテーマであり、まだまだ議論され尽くされていない「古くて新しい」テーマです。

この問題を突き詰めていくと、結局、番組制作者、マジシャン、観客のそれぞれの在り様が問われることになるでしょう。

まずは、過去および最近の事例をみていくことにしましょう。

日本および海外の事例

プロマジシャンの藤山新太郎師は、SAMジャパンの機関誌「M・U・M JAPAN」において、これまでもっとも悪質な種明かし番組は以下の４件だと指摘しています。

１．１９８２年、日本テレビ
　　　プロマジシャンによる人体切断等の種明かし
２．１９８４年、フジテレビ「カメラは見た、トリックの秘密」
　　　プロマジシャンによる種明かし
３．１９９１年、フジテレビ「笑っていいとも」
　　　週１回の種明かしコーナー
４．１９９１年、フジテレビ「とんねるずのみなさんのおかげです」
　　　手品君マジック君のコーナーで３週に渡って大道具の種明かし

これらは、日本奇術協会（プロマジシャンの団体）が強く抗議した結果、担当プロデューサの謝罪文や編成局長の誓約書を取ることに成功し、その後、悪質な種明かし番組は減ったと伝えられています。

しかし、過去の教訓を忘れたかのように、最近、日本のテレビ局では、マジックのネタバラシを目玉とする番組制作が主流になってきました。

きっかけとなったのは、昨年（２０００年）１２月１３日にＴＢＳテレビから放送された、「オフレコ！ Mr.マリックの超魔術徹底解剖スペシャル１」です。この番組では、多くのネタバラシが行われ、現在マジックショップでも販売されている「気化する水入りコップ」も含まれていました。

高視聴率を取ったことから、ＴＢＳテレビは、続編「超オフレコ！特大版目から巨大ウロコだぞＭｒマリックの超魔術徹底解剖スペシャル２」を今年（２００１年）３月２１日に放送しました。これまで、テレビでは、決して明かされることがなかった傑作「Rope」の種が暴露されました。

５月１６日には、ＮＨＫ教育テレビ「天才てれびくん」という子供向け番組の中で、プロマジシャン緒川集人師が指導という名のもとに「サムタイ」の種明かしをしました。

６月２日には、テレビ朝日が「テレビ王　禁断・・・裏側から激撮・・・手品マル秘ネタバラシ」を放送しました。出演は、マギー審司師。内容は初歩的なものでしたが、番組制作の姿勢は、明らかにネタバラシを煽る内容です。

６月３日未明には、フジテレビが「エブナイ」で「サムチップ」の種を暴露しました。行ったのは、若手芸人「ポプラ並木」。

もうこうなると、テレビ局のネタバラシ製作意図に乗せられて、プロマジシャンからテレビタレントまで総がかりで、次々にマジックの種が明かされようとしている様相です。

このままだと、「リンキングリング」、「ミリオンカード」、「ゾンビボール」、「ハト出し」、「カッパーフィールドのフライング」などの大切なマジックの種が暴露されるという悪夢のような日がこないとも限りません。

極めつけは、日本テレビが６月１６日（土）に放送予定の下記の番組です。

スーパースペシャル'01
「噂の覆面マジシャンが禁断のトリック大暴露」

■日本テレビの番組宣伝ページ(1)
■日本テレビの番組宣伝ページ(2)
■日本テレビの番組宣伝ページ(3)

この番組に出演するのは、米国において１９９７年から１９９８年にかけてFOX TVから放送された４作の"Breaking the Magician's Code: Magic's Biggest Secrets Revealed"の張本人Masked Magician （Valentino ：本名Leonard Montano）です。

彼は、その後、史上最悪・最低のマジシャンとして米国ショービジネス界から追放されました。１９９９年８月には、ブラジルに渡り活路を求めましたが、ブラジル奇術界の徹底した抗議行動により、同年９月には、ブラジル連邦警察によって国外へ退去させられました。

このようなマジシャンが今また、日本のテレビ界にスター扱いで登場しようとしている現実には愕然とすると同時に、一人の奇術愛好家として恥ずかしさを覚えます。

番組放送まで、あと２週間を切りましたが、この２週間は、日本マジック界の真価が問われる日々になることでしょう。

（2001/6/3　中村　安夫）