「マジック種明かし番組」問題

2001年テレビ事情・・・種明かし問題

中村 安夫(マジック愛好家)

(注)本論文は、JAPAN CUP 2002 記念誌(JCMA発行)に掲載されたものです。

Update: 2002/3/21


はじめに

 長い歴史を持つマジックという芸能において、タネの秘密というのは最も基本的な約束事であり固く守られてきた。しかし、最近この約束事が公然と破られるという事例が多発している。特徴は、家庭普及率が100%に近いテレビというメディア(媒体)を通して、マジックの種明かしが行われている点である。「種明かし番組」が成立する背景には、視聴率を取るために手段を選ばない「テレビ局」とそれに迎合する「マジシャン」、そして種を知りたい「視聴者」の存在がある。

 2001年の日本テレビ界では、トリックの暴露を売り物にするマジック番組が氾濫した。テレビにおける「マジック種明かし」問題は、日本だけではなく海外でも問題になっており、グローバルな議論の広がりに発展している。

マスクマジシャンの日本登場とその波紋

 日本テレビ系列は、3回(6月16日、10月11日、12月28日)に渡ってマスクマジシャンの特番を組み、大々的に宣伝を行い、12月には3日間のライブ公演も主催した。このマスクマジシャンという覆面姿の男はValentino (本名 Leonard Montano)というマジシャンである。彼は、1997年から1998年にかけて米国FOX TVが放送した"Breaking the Magician's Code: Magic's Biggest Secrets Revealed"(全4回)で数多くのイリュージョンの種を暴露した後、米国ショービジネス界から追放された。その後、1999年8月には、ブラジルに渡り活路を求めたが、ブラジル奇術界の徹底した抗議行動と不法就労等により、同年9月にはブラジル連邦警察によって国外へ退去させられている。このような人物をゴールデンタイムの2時間スペシャルに起用するテレビ局の姿勢は現状をよく映し出しているといえよう。「マジックはトリックが暴かれたことによって進化する」と主張して、さまざまなトリックを暴露してきたマスクマジシャンは、12月28日の番組を日本での最後の放送にすると語った。しかし、彼の主張の欺瞞性は一般視聴者にも見破られてしまったと感じる。私は種明かしを売り物にするマジシャンの末路を象徴しているように思えた。

Mr.マリックの活躍、その光と影

 10年ほど前、超魔術ブームを日本中に巻き起こしたMr.マリックは、しばらく忘れられた人となっていたが、2001年は復活の年となった。きっかけは、2000年12月13日に放映された「オフレコ! Mr.マリックの超魔術徹底解剖スペシャル1」(TBSテレビ系列)である。この番組では、多くのネタバラシが行われ、現在マジックショップでも販売されている「気化する水入りコップ」も含まれていた。高視聴率を取ったことから、TBSテレビは、続編「超オフレコ!特大版Mr.マリックの超魔術徹底解剖スペシャル2」を2001年3月21日に放送した。これまで、テレビでは決して明かされることがなかった傑作「Rope」(黒板)の種が暴露された。さらに10月3日には、「超オフレコ!特大版Mr.マリックの超魔術秘密公開スペシャル3」が放映され、「パドル・ムーブ」、「サーバント」、「ライジングカード」等、クロースアップマジックにおける重要な秘密が明かされてしまった。テレビ局の演出もどんどん悪趣味になっていき、「ばらしカメラ」、「モロバレポジション」、「このトリックを見破ってください。」というテロップの連続は眼を覆いたくなるようなシーンであった。

 一方で、Mr.マリックは、マジックの魅力を多くの人に伝える伝道師的な役割を演じているかのようにも思える。キャイ〜ン、ナインティナイン、モーニング娘。といった当代テレビの人気タレントにマジックを指導し、彼らのレギュラー番組で実演させている。また、10月から始まった「Mr.マリック☆魔法の時間」(テレビ東京系列)では、日本全国の小学校を訪れ、子供たちにマジックを演じる楽しさを伝えている。この番組は、前年(2000年)6月の「ようこそ先輩!課外授業」(NHK総合)を見た任天堂の社長が感激して出演を依頼したと言われている。

明日への希望

 マジック暴露番組が氾濫する中で、一服の清涼剤となったのが10月20日に放送された「つかめ アメリカン・ドリーム〜マジックにかける若者たち〜」(NHK衛星第2)であった。ミシガン州コロンで毎年開催されているアボット大会のジュニア部門に出場する10代の若者たちを描いた番組であったが、番組制作の方々のマジックに対する深い愛情が感じられた。2002年は、このような良質なマジック番組が数多く放映されることを期待したい。


関連ホームページ

■ スティングのマジック玉手箱

http://homepage3.nifty.com/MagSting/

■ 「マジック種明かし番組」問題特集

http://homepage3.nifty.com/MagSting/Exposure/exposureTop.htm


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Update: 2004/1/14