「マジック種明かし番組」問題

日本テレビ「Masked Magicianスペシャル」の問題点

Update: 2001/6/25


はじめに

日本テレビ系列が、2001年6月16日に放送した『スーパースペシャル2001 噂の覆面マジシャンが禁断のトリック大暴露』は、番組としてのクオリティが低かっただけではなく、非常に問題の多い番組でした。これから、この番組の問題点について、考えてみたいと思います。

問題点その1

海外で問題を起こした人物を視聴者を欺く方法で紹介した。

日本テレビの番組宣伝ページによると、「マスクマジシャンは、本名や年齢、住所さえも公表していない。なぜなら彼は世界中のマジシャンから憎まれる存在だからだ。判明しているのは、若い頃天才マジシャンとして注目を集めていたという事だけ。 」と紹介している。

しかし、1998年5月19日に米国で放送された"EXTRA" という番組の中で、Masked Magician の正体が Valentino 、本名 Leonard Montano 42歳のプロマジシャンであることが公表されている。

また、番組の中で、「20代で天才マジシャンと呼ばれていた」と紹介されたが、このような事実は全くなかった。

さらに、「彼は複数のマジシャンから命を狙われている」と紹介され、その後「世界一ギャランティの高い有名マジシャンは“奴はすぐに砂漠に埋められる”とそう吐き捨てた」というナレーションが、ランス・バートン師のモザイク写真とともに挿入された。これは、ランス・バートン師があたかも「彼を殺す」と言っているかのような印象を視聴者に与えるもので、このような手法は到底許されるものではない。

この男の正体は、1998年に既に米国ショービジネス界から追放され、1999年には不法就労等により、ブラジル連邦警察によって国外退去されられたというものである。

問題点その2

「マジックはトリックが暴かれたことによって進化する。」という主張は詭弁である。

マスクマジシャンは、「マジックはトリックが暴かれたことによって進化する。」と主張して、勝手に他のマジシャンが考案した作品のトリックを次々に暴露した。この行為により、米国では多くのプロマジシャンが所有する高価な道具を使うマジックを実演できなくなってしまった。

マジックの進化は、トリックの暴露によるものではなく、マジシャン自身の血のにじむような努力の結晶から生まれるものである。名実ともに世界のトップマジシャンであるデビッド・カッパーフィールドの傑作「フライング」は、完成までに7年の歳月を要したことはあまりにも有名である。

素顔のままでは評価が得られなかった三流マジシャンが、視聴率目当てのテレビ局から高額のキャラを積まれ、覆面をかぶって名声を得ようとしたというのが真実である。

問題点その3

マジックを種を見破るパズルゲームとして扱っている。

番組中に、繰り返し、「トリックを推理しながらご覧ください。」というテロップが流れた。マジックの見方として、これは最も面白くない方法である。素晴らしいマジシャンの演技は、種の存在など全く感じさせないほどの感動を引き起こすものである。

テレビ局は、「トリックの暴露」という誤った方向ではなく、真に視聴者を楽しませるような本格的マジック番組を制作して欲しいものである。

2001年6月25日 中村 安夫


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Update: 2001/6/25