Update: 2002/1/27
日本テレビ系列が、2001年12月28日に放送した『噂の覆面マジシャン 禁断のトリック大暴露〜戦慄の最終章〜』は、日本のテレビ史上に汚点を残した番組であったと思います。以下は、この番組に関わったさまざまな人たちについての私からのメッセージです。
「マジックはトリックが暴かれたことによって進化する」と主張して、さまざまなトリックを暴露してきたマスクマジシャン(Valentino)は、この番組を日本での最後の放送にすると語りました。
暴露されることにより進化したマジックとして、
「瞬間移動」「東京タワー前の空中浮遊」「機関車の消滅」「NHKホールの消失」等
を演じましたが、これらの現象の基本アイデアは、全てデビッド・カッパーフィールドの傑作イリュージョンからとったものです。
具体的には、カッパーフィールドの以下の作品に対応します。
"Cocoon (Metamorphoses)('93)","Flying (フライング)('92)", "オリエント急行の消失('91)", "自由の女神消失('83)"
しかし、マスクマジシャンが演じたものは、カッパーフィールドのイリュージョンと比べると進化どころか、そのレベルの低さが歴然としています。それどころか、質の悪いイリュージョンによって、カッパーフィールドの傑作を汚す行為でもあります。
マスクマジシャンの「マジックはトリックが暴かれたことによって進化する」という主張がいかに欺瞞に満ちたものであるかが、完全に証明されたと言えます。
彼が、今回の番組が日本で最後であると言ったのは、種明かしを売り物にするマジシャンの末路を象徴しているように思えます。
今回のマスクマジシャンの日本上陸は明らかに澤田隆治氏(東阪企画)が仕掛け人です。澤田氏は、かつて花王名人劇場において、北見マキ師やナポレオンズを中心とした優れたマジック番組をプロデュースし、日本マジック界に大きな貢献をした人物です。それだけに、今回の企画の意図が全く理解できません。視聴率を稼ぐためには、何でもやるという考えとしか思えません。
一方、プロマジシャンとして、前2回の特番でのプリンセス・テンコーに加えて新たにナポレオンズが加担したのは残念なことでした。彼らにとって、今回の出演は、過去の栄光を汚す結果となってしまったと感じます。「種明かしをするのが我々の芸風だ」といって、マスクマジシャンを批判しない立場をとっていた彼らの論理には、一理があると感じていた私も、今回のマスクマジシャンとの共演を見て失望しました。今後、世界のマジシャン仲間にどう言い訳しようとも、失った信頼を取り戻すのは困難でしょう。
マスクマジシャンを「今世紀でもっとも有名なマジシャン」と呼び、「禁断のトリック大暴露」と宣伝する番組制作姿勢はもはや救いようがありません。
今回の番組を見た視聴者は、暴露されたマジックを見て、他人のプライバシーの盗撮シーンを見たような後ろめたさと暴露されないトリックへの欲求不満のダブルパンチを受けたような気がしたはずです。
福留功男氏への疑問
私は司会者の福留功男氏のモラルが気になっていました。
彼はブロードキャスター(TBS)で、度々、社会正義を訴える
印象を視聴者に与えています。その彼が、マジックという芸能を
破壊する番組に加担しているのは問われるべきでしょう。
高橋英樹氏への疑問
著名な俳優である高橋英樹氏がレギュラーでゲスト出演しているのも不可解な点でした。本物と偽物の芸の区別がつかないような未熟なタレントと同列な印象でした。
2002年1月27日 中村 安夫
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Update: 2002/1/27