Dr. Tashiro のマジックレポート (No.1)

世界マジック・フレンド・コンベンション
(World Magic Friends Convention) 

第1日目(10/8): 厚川昌男賞


 受付が午後4時から。最初のイベントである「厚川昌男賞」のコンテストが夜6時からである。まずはマジックショップで時間を潰すこととする。ディーラールームに行くと出入り口に最も近いところで、深井洋正さんが、マジックを販売しておられた。およそ20年ぶりである。深井さんはちっとも変わっておられず、マジックよりもそのことの方が不思議であった。

(1)厚川昌男賞

 今回は、厚川昌男賞とは別に、会場のお客さんにも評価してもらい、50%以上のお客さんが同じ人を推薦した場合に、その演技者を来年のFISMのコンテストに送りこもうという企画もあった。お客さん全員に「採点用紙」が渡された。FISMの採点と同様、創造性、技術力、演技力、および総合評価の欄があり、それぞれS、A、B、C、の4段階で採点するようになっている。また、1番だと思った演技者の氏名にチェックマークをつけるよう説明されて、いよいよコンテストが始まった。もちろん、厚川賞の方は、最前列正面に着席されている厚川昌男さんお1人で審査されるのである。厚川さんとは会場で初めてお目にかかったが、思ったよりもご年配でいくらか足取りも心もとないような気がして、またズボンの裾もご本人はお気づきでないがまくれあがったりしていて、おやおやと思った。しかし、その後も会場で何度かお姿を拝見していると、やはりまだまだ第一線でご活躍の方だなと感じた。初日はなにかお疲れだったのだろうと、1人で納得して安心していた。(尚、FISMのコンテストは1人10分以内の演技と決まっているそうで、制限時間を逸脱した@、Cの演技者は審査対象から外されてしまった。)

@山本太郎(埼玉)

 エプロン姿で、テレビのリモコンをもって登場。リモコンを操作すると番組が切り替わるような音がする。料理番組(懐かしの、「グラハムカーの世界の料理ショー」のような感じ)が始まる。以下、男性のナレーション(「は〜い、ここでバターを少々!」など…)に合わせて演技をする。ナレーションはコミカルなもので、お客さんの笑い声なども入っている。ただ、料理好きな人が料理番組をみながらいっしょに料理をつくる、という設定は不自然であり、ナレーションに合わせて「演技」をすることはかなり違和感を与えるものだ。
  シルクハットからウサギを取り出す。(シルクハットの底が開くようになっているというギャグ)料理用ボールにカードを入れ、混ぜた後フライパンに移す。「色が変わったら出来あがり!」というナレーションに合わせてカードをボールに戻すと、カードのバックカラーが変わっている。「レモンを混ぜます。面倒な方はレモンジュースで代用を!」に合わせて、レモンを取り出し、目の前でレモンジュースの缶に変化させる。これをボールのカードにふりかける。(当然カードは濡れてしまう)「ウサギの内臓を取り出して、切り刻みます。」に合わせて、先ほどのウサギ(のぬいぐるみ)の中から内臓に見立てたデックを取り出し、シャッフルする(つまり「きる」)。このデックもボールに加えてしまう。「3時間このままです。でも、3時間も待つのいやでしょう。そこで、3時間前につくっておいたものがあります。」というナレーションに合わせてボールを取り替える。これを2枚の皿に盛り付ける。また、卵から黄色いシルクを取り出し、これをダブパンに入れてくるみ大のヒヨコのおもちゃ(小さいぬいぐるみ)をたくさん出して見せる。これも皿に取り分ける。ここで会場の女性に手伝いを頼む。「名前は?」「メアリ」というナレーションに合わせて、女性に「メアリ」と書いた札を首にぶらさげる。フォークとナイフを机にならべ「さあ、試食を!・・・どうして食べないんだぃ?」などというナレーションに合わせて演者はコインやスポンジボール、たばこなどを食べる。カード(デック)をかじり、かじったものを口から吐き出したりもする。女性に対して「なぜ食べないの?」というナレーションも入り、女性に襲いかかろうとするジェスチャーまで行う。その後「出演者が取り乱しましたので、アトラクションのマジックをご覧に入れます」というエクスキューズが入る。その後の演技については詳細不明。

感想:

 BGMのテープは本物の番組のナレーションのようで大変よく出来ていた。森山尚平さんが製作されたということが、後になりわかった。しかし、マジックとしての不思議さをもう少し強調された方がよかったのではないか。アシスタントをつとめてくれた女性に対しても、もう少し配慮した演出を考えた方がよいのではないか。カードにジュースをかけるなど、少し乱暴な点も気になった。David Copperfieldの万里の長城の回の、Mr. Rogers teaches trick using bandana (banana) folded into purse - vanish(マジックのラジオ講座。バンダナとバナナと間違えて、消失)を思わせるアクトであったという指摘もあった。

スティングのコメント:

演出・構成・BGMなど、かなり凝った作りになっており、創作意欲は十分感じられた。ただ、以下の点は気になったところであり、今後の改良が望まれる。

・ナレーション付きの料理番組という設定は面白いが、使われる素材がカード・スポンジウサギなどマジックの道具がそのまま出てくるというのは違和感がある。

・エンディングで、あまりにも多くの出し物が散らかっており、手順の中で出し物を片付けてしまうという工夫が欲しい。

・途中のキャラクターの変化の部分は、かなり不自然。前半はあっさりと、後半はギャグに徹するといった構成の方が良いと思った。

A高本 崇(奈良)

 プログラムに掲載していた名前は間違えであったと、司会者よりエクスキューズが入る。「山本宗」は誤りとのこと。どう間違えたのか非常に不思議。ハンカチから、「禁煙席」という手の中に収まるくらいの立て札(よくホテルのロビーなどにおいてあるもの)を出す。「しばらく喫煙はご辛抱下さい。」といって、演技が始まる。客席より1万円札を借りる。小さく丸めて輪ゴムをかけて、「シンブル」をつくる。シンブルが増え、4本の指に現われる。そのままお金は返すことなく、次の演技に移る。デックからカードを1枚選んでもらう。お客さんに正確な時間を計ってもらいたいという。時計をお貸しします、といって腕時計形の日時計を渡す。「これでは正確な時間がわかりませんか?」といいながら、方位磁針もお客さんに渡す。デックをリフルし、ストップといってもらう。しかし、ストップのところからは相手の選んだカードは出てこない。デックを1枚ずつ調べてみると相手のカードは消えてしまっている。困り果てた演者は次のような話をする。「この封筒は母が私にくれたものです。『困ってしまいどうにもならなくなったときに開けなさい。』といわれたのだが、今がそのときだと思う。ひょっとしたらわずかのお金が入っているかもしれません。」などといいながら、封を開ける。すると、紙がでてくる。広げて読んでみると次のように書いてある。「もうすこしがんばれ  母」その後にも文は続き、「お前は人から借りたものも返さないし・・・もっとしっかりしなさい!」などと小言が続く。「借りたものは返さない・・・」のくだりで、慌てて先ほど借りた1万円札を返したりする。そうこうするうちに、ふと方位磁針に目をやると、方位磁針の中にお客さんの選んだカードが入っている。

感想:

 母からもらった封筒、は面白かった。もう一ひねりできそう。演技も安心して楽しめた。前半の演技も含め私たちのお手本となるべく演技ではあったものの、後から思い出してみると、比較的印象が薄い気がした。

スティングのコメント:

余裕のある語り口と手馴れた演技は、かなりの実演経験がありそうな感じを受けた。

年配の観客に対して、「お友達に選んだカードを見せてください。」というセリフは、かなり違和感がある。客層に応じたセリフを使った方がよい。母から預かった封筒の演出は面白い。最後の方位磁針から客のカードが出てくるところは、現象が解りにくかった。

B藤本明義(東京)

 「どなたか、3万円貸して下さい。」という台詞で演技が始まる。財布に挟んでから、借りた人に質問をする。「今お借りしたお札に描かれている人物とは誰でしょう?ヒントとして、彼は小説家で「坊ちゃん」などの作品があります。」「・・・夏目漱石。」「正解です!」といい財布を開いて3千円を返そうとする。「冗談です。」といい、3万円を返す。「ところでゲームをしてみましょう。」紙袋のなかに赤、黄、青の箱が入っているのをしめす。それぞれの箱は筆入れのような形で、中にはキャンデーが入っていることを示す。袋にしまい、その中から箱を1つだけ取り出してもらう。何色の箱を取り出したのかは見ているお客さんにもわからにように、ハンカチでカバーしながら取り出してもらう。もちろん、演者は後ろをむいている。演者がお客さんのとった箱の色を当てられればお客さんから1万円頂戴する、もしもあてられなかったら、演者がお客さんに1万円差し上げる、という1万円のかけをしようと説明する。演者は袋の中の箱と同じものをもう1組取り出し、後ろ向きに立つ。お客さんが箱を1つ取り出したら、演者も1つ、箱を示す。お客さんがハンカチを取り除くと、演者の示した箱の色と一致している。あと、2回これを繰り返し、お客さんからまた3万円をせしめる。(当てた色は、黄、黄、赤)「それでは、商品をお渡ししましょう」といい、3枚の封筒のうち1枚を選ばせる。選んだ1枚を開けると、「はずれ(箱の中身)」と書かれた紙が出てくる。残りの封筒を開けると、「参加賞1000円」、「努力賞2000円」とそれぞれ書かれた紙が出てくる。箱をあけると、それぞれの箱から1万円札が出てくる。これをお客さんに渡して演技を終える。

感想:

 今年のS.A.M.のクロースアップコンテストの優勝者。しかし、そのときとは全く異なる演目で意欲を感じられる。お客さんから3万円をかりたとき、横をむいて「うまくせしめたぜ!」というような顔をしたりするところなどは、おかしさはあるけれど、ちょっと気になるなと感じるお客さんもいるかもしれない。お金をかける、ということを演技に組み入れるのは慎重にすべきで、誰もが見習えるというものではない。オリジナリティーもあるのだから、お客さんといっしょにマジックを楽しみましょうというスタンスをもっと強調されれば、もっともっとすばらしいショーになるのではないかと思った。

スティングのコメント:

コンテストの常連となった藤本さんだが、毎回新しい出し物を出してくるのは立派。

今回のマジックの不思議感は十分。演出面では、服装といい、態度といい悪徳詐欺師という印象がリアル過ぎて楽しめない。もっと安心した笑いの要素を入れないと逆効果。

C林泰広(東京)

 プロの推理作家であり、小型のホワイトボードを持って登場。自分の最新作の話など、マジックと関係のない話を色々なさる。光文社文庫の「本格推理」の第8、13、14巻に短編が収載されているという。厚川昌男さんを話題に愉快なおしゃべりをされたり、「マジックは、最後にちょっとだけおみせします」などといってとぼけるところなどが大変おかしかった。そしていよいよマジック。デックをお客さんに調べてもらい、2枚のジョーカーを抜き出しておいてもらう。デックを厚川氏の上着の左ポケットに入れてもらい、そのうち1枚だけポケットに残し残りのデックを取り出してもらう。厚川氏の左隣のお客さんに、デックを受け取ってもらい、デックの枚数を数えてもらう。厚川氏が1枚ポケットに残したのだから、デックは51枚であるはず。ところが50枚しかない。「厚川先生、カードを誤って2枚残したのではありませんか?1枚はデックに戻して下さい。」と言い、厚川氏は1枚をポケットから取り出しデックに戻す。「それでは、厚川先生のポケットの中のカードを当ててみましょう。マジックで当てることもできますし、ロジックで当てることもできますよ。まずはロジックで当てましょう。」デックを後ろのお客さんに回してもらい、好きなスーツのカードを集めてもらう。さらに別のお客さんがそれ以外のスーツを集める、という具合に4人のお客さんにそれぞれスーツ別のカードをえりわけて持っていてもらう。さらに、それぞれのお客さんにそれぞれのパケットをランク順に並べ替えてもらう。「1枚足りない人がいるはずですが、どなたでしょう?」これで、厚川氏のポケットの中のカードがわかる。と、同時に使用したデックがフェアーなものであることが証明される。「誰かが厚川さんに、『お1人で審査されるのは大変でしょう。』と尋ねたところ、『いいえ、事前にお金を頂いた方に賞を差し上げればいいのです。』と答えられたとか。そこで私は厚川先生にこれを差し上げましょう。」と言い、「本格推理」の第14巻を厚川氏に渡す。実際、この本を渡すところがトリックの非常に重要なところなのだが、演技のどこでこれを行なったかは、はっきりしない。演技の前半で渡していたかもしれない。「それでは、次はマジックで当ててみましょう。厚川先生、私の作品のページを開いて下さい。そこになにか暗号が記載されているはずですが・・・それを読み上げて下さい。」厚川氏は読み上げる。「あさのあいつはハマチのかおだ。」これをホワイトボードに移し、文字の順を入れかえる(anagram)と、「厚川昌男のダイアの8」と読める。「『泡坂妻夫のダイアの8』とも読めるんです。」といって、会場の爆笑をさそう。厚川氏にポケットからカードを取り出してもらうと、確かにダイアの8であった。

感想:

 今回のマジックでは一番不思議だった。全く自由に選んだように思わせていかにフォースを実行するか。まさに推理小説の謎解きのようであった。しかし、演者まで綿密に計画された完全犯罪を実行するかのようであり、「おもしろかった」というより、「どうやってやったのだろう?」という印象の方が強く残った。コンテスト終了後、スティング(中村)さんと話し合った結果、次のような手段を用いたのではないか。厚川氏がカードを2枚とった、という段。実はデックは初めからダイアの8がない、51枚のデックであった。厚川氏がポケットに1枚残すとデックは50枚になる。ポケットに2枚カードがあるはずだから、1枚返して下さい、と言って返してもらったとき、厚川氏のポケットは実は空っぽになっていた。ダイアの8は演者がパームしており、厚川氏に自分の本を渡すときなどに氏のポケットにカードを入れてしまった。以上である。ただ、直後の印象では演者は厚川氏に近づかなかったようであり、全く不思議であった。しかし、詳細に検討すると、演者が厚川氏に近づくすきがあったのである。文庫本といっしょにカードを渡してしまうことも出来るが、今回は文庫本は付近のお客さんに持っていてもらった。

スティングのコメント:

初めて見る演者だったが、この話術は、ちょっと真似ができないほど個性的。

自分の作品が収録されている市販文庫本の中に、予言が書かれているというマジックに驚いた。演技に使用された「本格推理」の第14巻は、是非とも購入したくなるほど秀逸なトリックだった。

D木本秀和(東京)

 オルゴールの蓋を開ける。オルゴールの音楽をBGMに小さなリンキングリング。4本組のもので、デパートのおもちゃ売り場で売ってるものかと思ったが、キーはロック式のものであるようだった。オルゴールの箱にリングをかけておくなど、オルゴールをスタンド代わりに使用していたのもきれいだった。女性にデックを調べてもらい、その中から6枚のカードを選んでもらう。6枚のカードをあらためてシャッフルしてもらい、1枚だけ覚えてもらう。6枚のカードを1枚ずつ黒い封筒(カードより一回り大きい。カードの1部が見えるようになっている。)に入れて、テーブルに並べておく。ピカチュウ(マスコット)の人形を封筒の上に置いていくと、女性の覚えたカードの上で「ピカチュー!ピカチュー!」と音が出て人形が点滅する。覚えてもらったカードを入れる、最初の封筒だけに仕掛けが施されていたのだろうが、現象がはっきりしていて面白かった。再びオルゴールをかけて、コイン(チェッカー)の出現・消失、色変わり。そのうちジャンボコインに変化する。さらに、オルゴールの蓋がフラッシュして、超ジャンボコインに変化する。

感想:

 技術がしっかりしていて、楽しめた。クロースアップでBGMを使うのは大袈裟だと思うが、このようにオルゴールを使うというのはひとつのヒントだと思う。ただ、マジシャンのキャラクターもルーティンも繊細な印象を与えるので、コンテストには不利かもしれない。

スティングのコメント:

昨年の第8回SAMコンベンションのコンテストでグランプリを受賞した作品。

私は、初めて見たが、構成・テクニック・演技力とも素晴らしい。非常にスマートな印象は私好み。

E高田麻季男(埼玉)

 白衣を着て登場。科学研究所の公開実験という設定。特殊な薬物を合成したという。マッチをすって火をつけても、その薬物をマッチの頭につけると、また点火できる。たばこが紙マッチを貫通する(たばこに薬物をくっつけるとそうなる、との説明で)、2つのリングをつなげる(薬物をリングにつけると、つながるようになるとの説明で)、2つの長い風船の両端を結び2つのリングにしたものを、つなげ、さらに1つの大きいリングにする(これらも薬物の効果であるとの説明で)。

感想:

 ストーリー仕立で、マジックを演じるのがいかに難しいか改めて認識させられた。台詞もあらかじめきっちり作ることができるのだから、演技では相当完成されたものが求められるので、周到・綿密な計画・準備が必要になるだろう。今回の演技も、1つのスタイルとして今後の可能性は秘めているものの、現段階では不足している部分も目についた。

スティングのコメント:

衣装・場面設定に凝ったものの、マジックの現象に意外性がなく、またセリフの内容も面白みに欠けた。

FYASUYUKI(東京)

 ボナ植木さん登場。あっけにとられる会場に向かい、「私は『やすゆき』です。ほら、住民票もとってきました!」と会場を歩き回る。「これまでのクロースアップショーでは、後ろのお客さんはテーブルの上がよく見えなかった。そこで私はクロースアップ用のテーブルを試作しました。」といって、テーブルの上に1メートル四方の緑のフェルトを貼った板をたてる。演者はテーブルの上に寝転ぶ。頭がお客さんの側にきて、脚がステージのバックに向く。この状態で緑の板をテーブル代わりにすると、お客さんはちょうど真上からテーブルをみていることになる。おかしな格好でマジックを演じる演者の姿に会場の爆笑は止まらない。以下、「テーブル」というのは、テーブルの上に立てた板のこと。テーブルの上にコインを並べる。コインはテーブルにくっついている。4枚を格子状に並べる。「こう並べると、何をするか見当がつきますよね。でも、私はラッピングはしません。(できない(笑))コインの移動も、この通りはっきり確認できます。(といって、上のコインを下に滑べり落して、下のカードの中に隠す。)上のコインが下に落ちたのではなく、右のカードの下のコインが左のカードの下に移動したのです。ちなみに、こちらが右、こちらが左、右前方、左前方、上、下・・・」ここでタバコに火をつけ一服しようとする。炎は上にいくので、右の親指に炎が触れる。「あちちちち!どうやら、左から風が吹いているようです。」この他、お客さんにカードを選んでもらい、そのカードの裏が赤くなるマジックや、コインマジックで、「皆さんご承知の通り、余分にコインを1枚持っているのです。」といいながらジャンボコインを取り出したり、マジックも演ずるが詳細は記録出来なかった。(あまりにおかしくて)

感想:

 コミックマジックとしては、素晴らしいものだったが、クロースアップとして、他のコンテスタントと競うのはちょっとどうかと思った。ともかくマジックそのものとしては特別なことを演じたわけではない。それでも、彼が厚川賞と、観客が選ぶFISMコンテストへの参加権との、両方を獲得してしまったというのは、他のコンテスタントの演技にインパクトが足りなかったということにも原因があるのだと思う。氏は98年SAM大会、箱根クロースアップ祭などでも演じたとのこと。「クロースアップのテポドン」であり、「他を圧倒する力がある」とはご本人の弁。プロマジシャンがコンテストにでてやろうという心意気は尊敬に値することは言うまでもない。

スティングのコメント:

噂に聞いていた、天井から見る「クロースアップマジック」のアイデアは奇想天外なものであった。私も厚川賞受賞は肯けるものの、FISMコンテスタント受賞の方は、他の演者に獲って欲しかった。

G高橋知之(東京)

 お客さんに千円札を借りる。テーブルの上にのせ、ハンカチをかける。ハンカチをとると、千円札は「シャツ」の形に折りたたまれている。「これは、千円札ではなくて、千円シャツです。」カード当て。これは詳細不明。カードを選ばせて、覚えてもらいデックに戻す。3枚のカードを選び出す。これはお客さんに選ばせたのだろうと思う。両手にファンをつくり、選ばれた3枚をアウトジョグしておく。3枚だけ抜き出して、お客さんに質問をする。「赤いカードでした?黒いカードでした?」など。3枚のうち2枚をデックに戻す。最後に残ったカードを見せるとそれがお客さんの選んだカード(QH)である。「このマジックは実は簡単なんです。裏に印がついているのです。」QHをひっくり返すと裏は赤でマジックで大きく「ハートのQ」とかいてある。のこりのデックを広げると、バックは全てブランクとなっている。ブランクカード10枚のマジック。カップルのお客さんに手伝ってもらう。両面真っ白のカードをお客さんに見せ、よく混ぜてもらい、1枚ずつ選んでもらう。男性は青、女性は赤で、カードに名前を書いてもらう。名前のカードをパケットに戻し、混ぜる。女性に、「愛してる。愛していない。・・・」と言いながら、カードを1枚すてて、次の1枚はバックに送るという具合に(ダウンアンダー)最後の1枚のカードが残るまで続けてもらう。最後に残ったカードが男性の名前が書かれたカードである。10枚のカードを集めて女性によく混ぜてもらう。同様なことを男性がやるが、やはり女性のカードが最後に残る。「1組のデックを使ってもできます。やってみましょうか?」といって笑わせる。「今度は念写の実験です。」といい、紙マッチを取り出す。紙マッチの蓋を開けた状態でテーブルに置く。マッチをする部分のひっかっかりと開いた蓋を利用して1枚のブランクカードを立てかける。たてかけたカードの後ろから残りのカードでリフルして風を当てる。立てかけたカードはパタンと倒れるが、そこには女性の名前が書かれている。女性の手のひらにこの女性の名前が書かれたカードを裏にしておく。紙マッチのうち、1本を90度曲げて、蓋は裏に折り返してしまう。曲げた1本に火をつけて、そのまま女性の手の上のカードの上に置くと、紙マッチはバースデーケーキの象徴のようにみえて美しい。「さあ、男性のことを思って・・・カードの名前は男性の名前に変化します。」カードを表にしてもやはり女性の名前が書かれたままである。ちょっと間があって、紙マッチを調べると、その中に男性の名前のカードが4つ折りになって現われる。

感想:

 最初の「千円シャツ」は後半と全く無関係であり、ちょっと違和感がある。しゃれたプロットだが、これは演じる側に洗練されたセンスがあるからそうなのであり、誰もが真似できることではない。現象は不思議だけれど、記憶がはっきりしない部分はやはり現象が込み入っていてわかりにくいからであろう。(と、演者の責任にしてよいのかな?)全体にスピード感を持たせるといいのではないか。

スティングのコメント:

流れるような語り口とスマートな演技は、いつ見ても安心して楽しめる。ただ、後で何をやったのか思い出せない点は、どこかインパクトに欠ける面があるのかもしれない。

発表:

 厚川賞はYASUYUKIさん。厚川氏曰く、「凝った演技のものはどうもトンチンカンでして・・・」厚川氏もテーブルに横になり、上から見たようなアングルで賞品授与をされるところが厚川氏の健在ぶりを印象づけられ、気持ち良かった。

スティングのコメント:

ここ数年、厚川昌男賞を観ていなかったが、相変わらず多彩なチャレンジャーが登場して非常に面白かった。


つづく   


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Update: 1999/10/25