Dr. Tashiro のマジックレポート (No.1)

世界マジック・フレンド・コンベンション
(World Magic Friends Convention) 

第1日目(10/8): ゲスト・ショー


(2)ゲスト・ショー

 コンテスト終了後、同じ会場の後方にワインが用意され、ワインパーティーが催された。その後、コンテストで使われた場所で、ゲストショーが行なわれた。1人20分。

@前田知洋

 (i) 会場の女性に手伝ってもらう。カップとボールを各一つ取り出す。 カップはマジック用ではない。陶器のちょっと素敵なマグカップ。ボールの上にカップをかぶせる。ボールの上にカップをかぶせたとみせかけて、実はカップをもった右手で巧みにボールをスチールしているのだ、と女性に説明する。スチールしたボールは左手にもちかえて、上着の左ポケットにしまうのだ、とも説明する。「それでは、もう一度やってみます。本当にカップをかぶせるかもしれませんし、スチールするかもしれません。お客さんに、ボールの行方を当ててもらいましょう。」二度、当てさせるが、当たらない。「実は、右手にボールをパームしていました。お客さんが、カップを指さしたら、左手でポケットからさもボールを取り出して右手に移し替えて右手でボールを示し、お客さんのはずれだと言うのです。また、お客さんがポケットを指さしたら、右手でカップを持ち上げるときに、右手のボールを落としカップの下にボールがあったように見せ、お客さんがはずれたことを示すのです。」などと、説明をするうちに、カップを取り上げると中からレモンがでてくる。さらにもう一度カップを取り上げるともう一つレモンが出現して演技を終える。

  (ii) 詳細不明。3人のお客さんに手伝ってもらう。お客さんの選んだカードが次々にカードの箱に入る。「カードが入るとき箱が動くのでよく見ていて下さい。」といい、カードの箱の後ろでリフルする。リフルした際に生ずる風で箱が動くのを見せて笑わせたりする。そうこうするうちに、お客さんのとったカード以外のデックが全て箱に戻ってしまう。

  (iii) 紙袋を会場のお客さんに渡す。中身を取り出してもらうと、8つ切りの食パンが出てくる。「よくあらためてからシャッフルしてください。・・・冗談です。」1枚を選んでもらい、二つ折りにして紙袋に入れておいてもらう。このあたりの演技の詳細は不明。演者が二つ折りの食パンを紙袋に入れ、残りを片づけたのかもしれない。ともかく、会場のお客さんには、2つに折った食パン入りの紙袋を持っていてもらう。次に別の2つの紙袋を示す。1つには「P」と書いてあり、中からピーナッツクリームの瓶を取り出し、中にしまう。もう1つには「J」と書いてあり、中からイチゴジャムの瓶を取り出し、中にしまう。中の瓶を入れ替えるという。「はい、入れ替わりました。ここからが難しいのですが、入れ替わった瓶をもとに戻してみます。」といって、百万年前のギャグで会場を沸かせる。その後、数回本当に瓶が入れ替わったことを示す。さらに、紙袋をもったお客さんの紙袋に移動させるという。お客さんが紙袋をあけると、二つ折りのパンの間には、ピーナッツクリームとイチゴジャムが半分ずつ塗られている。

感想:

 現象のはっきりした3種のマジックを行った。すっきりした内容で、非常に不思議でもあり、見ごたえがあった。演者自身もお客さんとともに不思議の現象を驚き、楽しむ、という姿勢に好感がもてた。お手伝いをしてもらったお客さんに対するマナーもよく、私たちも是非お手本にしたい。ただ1つだけ、気になったのは演技で使ったパンをおみやげにどうぞと、お客さんに渡すところ。カードでも、ロープでも、マジシャンはよく演技で使ったものをお客さんに「プレゼント」するが、よほど考えてやらないと、失礼になるのではいか。私自身、2日目に、Michael Weberから2つに切ったグレープフルーツを「プレゼント」された。たまたまビニール袋を持っていたので助かったが。

スティングのコメント:

前田知洋さんのカップ&ボールは、以前、金属製のチョップカップを用いた手順を見たことがあったが、普通のマグカップを使用した手順を見るのは初めてだった。数日前、TVの再放送番組で演じていたカズ・カタヤマさんの手順も普通のコーヒーカップを使用したものだった。より自然さを追求するプロマジシャンの姿勢は見習うべき点が多い。

最後の食パンとジャムのマジックは、ユニークで独創的な作品だった。

Aトム・ストーン(Tom Stone)

 彼とは、最終日のパーティーで話をする機会があった。スウェーデンで活躍しているプロマジシャンである。(スウェーデンには20人程度のマジシャンしかいないらしい。尚、スウェーデンと言えば、ダイ・バーノンが師と仰いだNate Leipzig (ネーテ ライプチッヒ)(1873-1939)が有名。)今回は、ゲストショー以外にレクチャーにも出演することになっている。海外でのレクチャーはベルギーとオランダにつづく3度目だったとのこと。著書はスウェーデン語のもの(子供向けのものなど)など何冊かあるという。マジックは全て書籍から学んだとのことで、ビデオはかえって勉強しにくいし、第一ビデオデッキがないんだよ、といっていた。しかし、彼のミスディレクションやサトルムーブメントは、かなりのマジシャンの演技をみなければ身につけることが難しいのではないかと思われた。キャリアは長く8才くらいからはじめ、中学に入ると精力的に読書をしたという。蔵書は本棚に並んでいるだけでも数百はあるという。来年のFISMには参加しない予定とのこと。シャイで上品な印象を与える若手マジシャンであった。尚、2日目のレクチャーで、このショーのほとんどの内容が解説された。本レポートでも、「レクチャー」の項でショーの詳細を再度解説することにする。またレクチャー当日、マジックランド製作のレクチャーノートが販売された。懇切丁寧な解説があるため、本レポートの解説では、レクチャーノートの内容との重複は敢えて避けた。

  (i) The One Coin Opener レクチャーノート(マジックランド・2千円)に詳細に解説されている。テーブルの両脇に2人のお客さんに座ってもらった状態で行う。コインを突然出現させ、出現・消失を繰り返す。途中からペンの出現・消失も加わり、最後にジャンボコインの出現・消失を行う。

  (ii) Flight of The Bottle Cap レクチャーノートに解説されている。ジンジャーエールの瓶の栓を栓抜きでとる。この栓(王冠)を栓抜きを用いて消失させる。ふとみると、栓は元通り瓶の口に戻っている(きちんとはまっている)。

  (iii) グラスの消失・出現(グラスを持ったままその場でくるくる回ると手に持っているグラスが、演者が正面を向くたびに消えたり現れたりする)(レクチャー参照)

  (iv) ナプキンから、コイン・液体入りグラス・革靴の出現(レクチャー参照)

  (v) たばこの復活及び出現・消失(レクチャー参照)

  (vi) ボトルの出現(レクチャー参照)

  (vii) 瓶に飛び込むコイン(詳細不明)


感想:

 この他にもなにかマジックをやったはずであるが、記録がない。グラスを出現させたりもしたかもしれない。(レクチャー参照)陽気にぺらぺら喋りまくるのではなく、ちょっと堅い表情で行うので、コインがたった1枚出現しただけでも、不意をつかれてひどく驚かされるものであった。ルーティン自体は彼のレクチャーノートにもあるように、デビッド・ロス、デビッド・ウイリアムソン、ジョン・コーネリアス、ダイ・バーノンなどの作品のモザイクである。しかし、しっかりとした技術に裏付けられた、構成もきちんと計算されたルーティンは、不思議さもはっきりと強調され、大変楽しいマジックショーになるのだということを再認識させられた。特に新しいことをしなくても、新鮮に見えてしまうものなのだ。

スティングのコメント:

今回のコンベンションでは、たくさんの収穫があったが、その一つは初来日のトム・ストーンの演技を間近で観ることができ、また直に話ができたことだった。好きなマジシャンは誰かと聞いたところ、トミー・ウォンダーとマックス・メービンの名前を挙げた。

彼のマジックは、シャープで洗練されているという印象だ。大胆なスティールも絶妙なタイミングのミスディレクションにより、まったく怪しさを感じさせない。

つづく   


btBack.gif (2191 バイト)


Copyright © 1999 Shigeru Tashiro & Yasuo Nakamura. All rights reserved.
Update: 1999/10/26