Dr. Tashiro のマジックレポート (No.1)

世界マジック・フレンド・コンベンション
(World Magic Friends Convention) 

第2日目 (10/9) : レクチャー(Tom Stone)


 本日は、キャピトル東急ホテルから徒歩数分の星陵会館で全てのイベントが行われた。ロビーが狭く、食事などもホテルまで戻らねばならず、若者以外にはきつい会場設定であった。

(1)レクチャー(Tom Stone)

 プログラムにあった、Ardan Jamesのレクチャーは、翌日のジャグリング教室でレクチャーを行うこととなり、このセッションはトム・ストーンの独壇場となった。通訳は柳田氏。1つ演じては1つ解説のスタイル。尚、レクチャーノートは2分冊で、それぞれ2千円だった。ここでは、レクチャーノートには書かれていないことを中心にまとめる。また、特に断りのない限り、以下の発言はトム・ストーン自身の発言である。
  
  (i) The One Coin Opener

 レクチャーノート(マジックランド・2千円)に詳細に解説されている。今回もテーブルの両脇に2人のお客さんに座ってもらった状態で行った。まず、テーブル右前方になにかあるような顔をする。さらにそれを右手でつまみあげるような動作をする。それを左手に移して握り、再び左手をひらくと突然コインが出現する。「お客さんは最初は『この人、頭がおかしいのではないか?』と思うことでしょうが、ここで演者とお客さんが対等の関係になります。」という彼の解説は彼の演技に対する緻密な計算の一端を示すものであった。その後、前日のゲストショーでのルーティンを忠実に再現しながらレクチャーを行う。最後のジャンボコインの出現のセットは、左の腰部、ズボンのベルトにはさんでおくだけ。そのスチール方法が彼のミスディレクションの考え方と合わせて説明された。右手を、テーブル左前方に伸ばしコインを出現させる。それと同時に、左手を後ろに回してジャンボコインを引き抜いてくる。大切なことは、両手が同時に動き出し、同時に止まる、ということだそうだ。片方ずつ手の動きを再現してくれたが、本当に左手は腰にまわしてジャンボコインをもってくるだけのことで、スチールなどとはとても呼べない。それでも、左手がジャンボコインを取ってきたことに全く気づかないのである。私も非常に感銘を受けた。これは、ジャンボコインをテーブルに落とすと同時に、レギュラーコインを堂々と上着の右ポケットにしまう場合にもいえることである。最後にジャンボコインの消失・出現を行い、演技を終える。

  (ii) Flight of The Bottle Cap

 これも、昨日のショーで非常にうけたトリック。確かに栓抜きで抜いたと思ったボトルの栓が、もとに戻っているのだから、大変驚いた。レクチャーノートに詳しい解説がある。栓を抜くとき、舌を上の歯の裏に押しつけて、「つっ!」と音を立てることで、本当に栓を抜いたように見せるのである。そんなことでばれないのかとも思うが、確かに最初の演技での音は耳に残るものであり、確かに栓を抜いたことを印象づけられるアクトであった。素晴らしいマジックの芸とはこのように解説を聞けばその大胆さにうろたえてしまう場合があるが、これはそのよい例である。

  (iii) Champagne

  レクチャーノート参照。ペーパーナプキンの上にコインを現し、再び消す。次にそのナプキンから液体の入ったグラスを出現させ、最後には演者の靴を出現させる。テーブルの上に置いてあるお客さんの飲み物(グラス)をスチールして、それを出すというもの。ミスディレクションもここまで高められるとそれ自体が芸になってしまう。まずは、自分の左肩のまっすぐ前方に飲み物入りのグラスが位置するように立つ。そして、右足の靴を脱ぎ足にひっかけておきます。以下、レクチャーノートの通り。また、コンベンションのロビーで何人かで立ち話をしているときなどでも、左前方に立っている人の陰で靴をスチールすることは可能だという。

  (iv) グラスの消失と出現

 飲み物の入ったグラスを右手で持ち、おなかの高さに保持する。そのまま体をくるっと1回転させると、右手の位置は変わらないがグラスが消えている。もう1回転するとグラスが現れている。なんども回転しそのたびにグラスは消失・出現を繰り返す。これは、左手を上着の左のポケットにつっこんだ状態で演技する。後ろをむいた瞬間、左手はポケットに入れたままで、右手のグラスを取りにいくのである。取ったら、左手をもとの位置に戻す。すなわち、グラスは上着の布越しに左手で保持されているのである。

(ここで休憩)

  (v) The Impromptu Cigarette Tear

 レクチャーノート参照。「たばこを吸われますか?」という質問で始める。パームしていたたばこを出現させる。たばこをちぎり元通りにする。茶色いフィルターつきのたばこでないと現象がはっきりしない。
  (vi) たばこの消失

 人差し指と中指で挟んだたばこが目の前で消える。これは角度に極端に弱い技法であった。詳細は記録できなかった。その後たばこの消失・出現を繰り返す。右肘を示すときに、右手にパームしたたばこを左耳に突っ込んでしまう。お客さんは左耳のたばこに気づいて笑い出す。右手で左耳のたばこを取るときに、左手はズボンのポケットからライターを取り出す。右手のたばこを左手に移して、左手を握る。(実際にはスイッチが行われ、たばこは右手にパームされている。)右前方のお客さんに「左手に息を吹きかけて」、と言ったらそうしてもらうように頼む。ちょっと間をあけて左手をちょっと動かすと、その動きにつられてお客さんは「ふっ」と息をかけてしまう。「まだ、『息をかけて』とは言っていませんよ。」といって、お客さんを笑わせる。「では、息をかけて!」と言った瞬間、右手のパームしていたたばこをくわえ、左手をあける。

  (vii) T S Cigarette Vanish

 レクチャーノート参照。上の、たばこの消失の演技に引き続き行なう。くわえたたばこにお客さんが気がつくと、これに火をつけようとする。ふと気づくとたばこは消えている。

  (viii) ボトルの出現

 右前腕部にナプキンをかけておく。右手は上着の右襟の下部を持っている。実は、右手の中指はボトルの口に突っ込んであり、ボトルは上着の内側に隠れている。左手で右の内ポケットの中身を探るような動作をする。次に左ポケットを探し、あきらめたような顔をする。右手にかかっているナプキンをとりあげ、ボトルを出現させる。これは、即興で出来るようになっているが、ソックスなどでフォルダーをつくれば、ジャケットの上から押さえればボトルがすべってスチール出来るようになるだろう。

  (ix) Guidichar

 5枚の紙片のうち1枚には真実を、他の4枚には虚偽を記載してもらい、そのうち、真実の事柄が書かれた紙片を当てるというもの。レクチャーノートに詳しい。

感想:

 ほとんど特別な用意がなくてもこれほどのショーができるものかとつくずく感心した。レクチャーノートは詳しくよくできている。しかし、何の理由もなく2分冊となっており、さらに、演技の順番とノートの解説とは全く異なり、レクチャーの一部はノートに収載されていない。明らかに以前のレクチャーノートの翻訳したものに過ぎないとわかる。また、ワン・コイン・オープナーのノートはテーブルホッピングをする場合の演技が示されており、必ずしも今回のレクチャーのための「ノート」にはなっていなかった。それでいて、2冊で4千円もするのだから、不満も残る。マニアの集まりだからそれで通用してしまうのだろうけれど、いつまでもそれではいけないと思う。

スティングのコメント:

今回のレクチャーは、彼のレストランでのテーブル・ホッピングの経験と深い研究に裏打ちされた内容であり、多くのものを学んだような気がする。

特に印象に残ったのが、"Flight of The Bottle Cap" グラスの消失と出現」
ボトルの栓は、本当に抜けたように思った。また身体をターンさせながらのグラスの消失と出現は、一瞬、眼を疑うほど不思議な気分だった。

10月28日の二川滋夫さんのYMG特別レクチャーでは、早速、二川さんが実演しました。


つづく   


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Update: 1999/10/30