Dr. Tashiro のマジックレポート (No.1)

世界マジック・フレンド・コンベンション
(World Magic Friends Convention) 

第2日目 (10/9) : 新・西洋寄席


(5)新・西洋寄席

 司会と通訳はMax Maven氏。Mac King氏の演技の後で、ディーラーのジョー・スティーブン氏は、シーグフリート&ロイの2人から預かってきたという、小野坂さんへの感謝状を、直接小野坂さんに授与するという一幕もあった。彼らの感謝状は小野坂さんへの深い尊敬と愛情に満ちた心温まる内容であり、胸がじんとするようであった。

@David Ben(カナダ)

(i) 5本リング。2連リング1組、シングルリング2本、キーリング1本の組み合わせ。リングが腕を通り抜けたり、腕から腕へ移動したりする現象は不思議。

(ii) 塩。フレッド・カプス氏が演じていたのを思い出した。塩の入った瓶を示し、ふたをとる。ふたをポケットにしまう。瓶からこぶしに塩を入れる。こぶしをあけると塩がこぼれてしまう。これを2回くりかえし、3度目には、左手のこぶしの塩を右手で受け取ったジェスチャーにて、右のこぶしから塩が長時間流れ落ちる。

感想:

 ショーとしての構成はあまりに稚拙。後半の塩の演技は尻切れトンボ状態。全体に繊細に過ぎて、力強さが全くない。ホテルのロビーではクロースアップマジックの実演と解説を明け方までやっていたそうで、評判はよいマジシャンだったが。

スティングのコメント:

礼儀正しいマジシャンという印象を受けたが、演技内容はインパクトに欠けた。

AMax Maven

 上手側幕間に立っての演技。怪しげな日本語で「チョット予言シマス。」と言って、お客さんに茶封筒を渡しておく。「予言」というたいそうなことを、「ちょっと」で片づけてしまう感性がおかしかった。その他、「”フェア”デスカ?」(”フェア”だけ英語の発音=昔は「正直デスカ?」と言っていたらしい)など、同じ言葉をくりかえすので、思わず吹き出すようなところもあった。ジャンボESPカードを取り出し、お客さんに混ぜてもらう。かえしてもらったら、演者もさらに混ぜる。カードを1枚ずつボトムに回していくので「ストップ」と言ってほしいという。ストップのカードを見ると「十字」であった。予言の封筒をみると、中から「丸」の形が書かれたカードが出てくる。「完全に封筒から予言のカードを出して下さい。」と言うので、中の予言のカードを引き出すと、数字の10であった。(最初に見えた丸は「ゼロ」の部分だったのである。)「十字は、漢字では『十』、すなわち「10」です。」と言って演技を終える。

感想:

 フォースが巧み。「十字」のカードだけ裏から識別出来るようにしておくとしても、ストップと言われるタイミングは予測出来ない。心理的にフォースしているのだろうか?

スティングのコメント:

日本での演技ということを十分考慮に入れた手順になっていた。メンタルマジックの第一人者の座は揺るぎないことを見せ付けられた。

Bマサヒロ水野

 ジャグリング。蛍光塗料を塗った3個のボールをブラックライトのもとであやつる。その他、デビルスティック、シガーボックス。

 

感想:

 非常に好評であった。一般の人に見せればおそらくマジックより受けるであろうと思うと、私たちマジシャンはうかうかしてはいられない。

スティングのコメント:

ジャグリング・エンターテインメントの芸は、ますます磨きがかかってきた。特に蛍光塗料を塗ったボールの動きは、美しい軌跡を描き、芸術的な効果が感じられた。

CMax Maven

 横長の紙に、「これは不思議です。」と書いてある。A4の紙1枚に1文字ずつ書いてつなげたという感じ。この横長の紙を蛇腹状に、ぱたぱたと折り畳んでいく。そして、デビッドカッパーフィールドのテアラブルのように、文字のところだけ切り抜く。この中から1枚の紙を選んでもらう。「。」が書かれた紙であった。予言の封筒をみると(さっきのままなので)「10」と書かれている。「1」の部分は余分であるが「テンデスネ。」といって強引に押し切る。

感想:

マニアの前だからこそ演じられる。このフォースも不思議であるが、おそらく「。」の紙だけたくさん用意してあって、「これは不思議です。」の紙(袋状になっている)の中にセットされているのではないか。縁を破り取るとそれが出てくるようになっているのではないか。応用範囲が広そうで、いかにもターベルコースにでも解説されてありそうだ。 ・・・と、当初記載していたが、11月12日にLILLIPUTさんこと、綿田敏孝さんから「それは違うぞ!」というメールを頂戴した。現象で「。」をお客さんが選んだあと、マックスさんは、「。」を見て、「テン、デスネ。」と確認する。「『テン』デス。="ten"デス。=10デス。」ということで、予言は「10」のカードを出すことになるわけで、予言は大変「フェアー」である(笑)ということになる。綿田さんのご指摘を読んで思わずぽんと膝を叩いてしまった。なるほど、なんとなくスッキリしなかったがこれで演者の意図がはっきりわかった!という気になり、あのときの演技を改めて楽しむことが出来た。また、同氏よりフォースの部分も私が思ったよりシンプルで、「クラシックフォースを利用したのではないか?」という賢明なご推察もあった。なるほど名人ともなると仕掛けなんかなくともフォースくらい出来るのだろう。これまた納得。
それにしても、インターネットにより文章を公開すると、一方的ではなく、このように随時ご指摘を頂きながら更新していくことができ、その文章が私自身を含め皆さんにとってより有益な情報に進化していくものだということをつくづく実感した。ただ、私自身の経験から言えば、既にある情報に対して何らかの意見を主張するというのは結構勇気がいることであるし、面倒くさくもある。それにもかかわらず、今回の綿田さんのようにご親切なコメントを頂けると、非常に嬉しく思うし、それをこの文章を読まれる皆さんお一人おひとりにフィードバックしていくことが出来る。このような場を提供して頂いたスティングさんこと中村安夫さんと、LILLIPUTさんこと綿田敏孝さんに改めまして深く御礼申し上げます。どうぞ、皆さんも些細なことでも結構ですからお気軽にコメントや感想をいただけませんか?

スティングのコメント:

予言の「10」のオチは、演技を観た直後は気がついていたが、LILLIPUTさんのご指摘があるまで読み落としていた。LILLIPUTさんに感謝。

DMac King

 ラスベガスのマキシムホテルと1年間の契約を結び、1時間のワンマンショーをすることになったという。油ののったすばらしい演技。(続報によると、そのホテルが倒産したため営業継続困難となったそうである。なんらかの形で、ショーだけでも続けられるようになればいいが。)

(i) ロープ切り。「ワタシハ、マックキングデス。ヨロシク!」と言ってはじめる。ロープがつながると会場が沸く。「モウイチド?」と尋ね、会場が歓迎すると、「ワタシハ、マックキングデス。ヨロシク!」と、全く同じことを言って演技をやり直す。デビッドカッパーフィールドもオープニングで同じようなギャグを使っていたことを思い出す。その後ロープが完全な輪になったり、細かく切って結びあわせたものがつながったりする。非常に不思議。最後はロープを会場に投げ捨てる。

(ii) カードの飛行。2人のお客さんにステージに上がってもらう。まず、黄色い雨合羽を示す。「これを着ると透明になるんです。でも今夜はやりませんがね。」と言って雨合羽をステージの袖に投げる。デックを示し2人のお客さんにそれぞれ10枚ずつカードを数えてポケットにしまっておいてもらう。女性のお客さんのポケットの中のカードを3枚、男性のお客さんのポケットに飛行させるという。(デビッドカッパーフィールドのパンティースワップを皮肉ったようなやり方をして、知っているお客さんは密かに笑った。)次に演者はちょっとステージの袖に引っ込み例の黄色い雨合羽を着て(フードもかぶって)登場する。これから1枚のカードをポケットから取り出しますよ、といった演技をして女性に近づく。必要以上に近づくので女性は当惑すると、首に「ふっ!」と息をかける。取り出したカードをもって男性に近づき男性のポケットに投げ入れる動作をする。同様に2枚目、3枚目も移動させるジェスチュアをする。(あくまでもジェスチャーだけで、実際にはお客さんのポケットにさえ触れない。)そのたびに、女性に近寄って大きな声を出したりして、女性をからかう。3枚のカードを移動させたら、やおら雨合羽を「ぱっ」っと脱ぎ捨て、"Now, I appear! I'm back!"(「ほらここですよ。でてきましたよ!」)と叫ぶ。会場のお客さんはたいそう喜んだ。女性にポケットからカードを取り出し、枚数を数えてもらうと、カードは予告通り7枚しかない。女性はひどく驚いていた。女性から7枚のカードを受け取り、それを顔にあてて、「あたたかい・・・」と言ってまた笑わせる。(女性はズボンのお尻の部分のポケットにカードを入れていた。)男性にもポケットのカードを確認させると、カードは13枚ある。

(iii) グラスとストロー。ストローでグラスの水を吸う。吸ったままストローの上の口をおさえると、ストローの中には水が入ったままである。頭を横にして、このストローの水を耳に入れるような動作をする。頭を元の位置にもどすと、口から「ピューッ!」と水がでる。

(iv) 頭の消失。紙袋を頭にすっぽりかぶる。そのまま、その立っている位置でくるくるターンする。そしてちょうど背中をお客さんに向けた位置で止まる。一呼吸おき、両手で紙袋のてっぺんから、「ぐしゃっ!」と押しつぶしてしまう。肩の上にぺっちゃんこの紙袋の残骸が乗っかっている状態であり、かなりショッキングである。女性のお客さんは「きゃあっ!」と声を出した。ただ、頭を前に曲げているだけのことだろうが、非常に強いインパクトを与えるものだった。

感想:

 まとまりのあるショーで不思議さとおかしさのバランスもとれていた。ロープとカードは非常に不思議である。特にカードは3枚のカードが移動するだけのことで、現象はあまり面白いものではないが、演出の工夫により不思議であるばかりでなくとても楽しめるすばらしいトリックになっていた。彼のショーを見るためだけにでも、ラスベガスに行きたくなってしまった。

スティングのコメント:

マック・キングのコメディーマジックは、屈託のないユーモアに溢れている。彼のロープきりは何度も見たことがあるが、軽妙なテンポが素晴らしい。20枚カードは、私もよく演じる作品だが、今回の演出は彼ならではのもの。

EArdan James (Milwaukee)

 ジャグリング。2人のスタッフに「運ばれて」登場。かちかちのマネキン人形のよう。

(i) ハンカチが演者の意思に反して動こうとする。演者がハンカチの中央を握っているが、垂れ下がった一方の端がピンとのびて、演者を引っ張ろうとする。演者もムーンウオーク(前に進もうとするが足が滑って先に進めない)などをして、強い力で引っ張られているような演技をする。お客さんにチップの紙幣を示し、「一緒に引っ張ってくれないか?」などと頼み笑わせる。

(ii) 帽子を取り出す。帽子が空中の1点で静止する。手で引っ張っても、びくともしない。会場から5歳くらいの男の子が登場。帽子は生きているかのように、男の子の頭に飛びつく。帽子を引っ張っても帽子は取れない。子供の肩に足を乗せて帽子をぐいぐい引っ張ったりする。それでもとれないので、今度は帽子を上に引っ張る。すると子供は帽子にくっついたなりで持ちあがってしまう。意地になった、という風で、帽子を持って降りまわすと、それにくっついている子供はびゅんびゅん空中を「舞う」。あきらめた、といった表情で帽子を離すと、子供がひょい!と、帽子を脱いでしまう。

(iii) 風船を膨らませる。膨らむに従って体が浮き上がる。その後、風船を使ったアクト。意味不明の部分もあり。お客さんにお手伝いを頼む。風船を自分の頭でこすり、摩擦を起こし、お客さんの体に風船をくっつけようとする。なかなかうまくいかないが、そのうち、演者の頭がお客さんの体にくっついてしまう。どうにか、頭をお客さんの体から外し、風船をお客さんに持っていてもらう。長い針を示し、風船に突き刺そうとする。突き刺そうと風船の直前まで針を近づけるが、恐くて刺すことができず、するりと針をよけてしまう。そのうち映画「ジョーズ」のテーマ曲が流れる。音楽にあわせて風船に近づくが、風船に最接近すると、突然音楽がラブストーリー映画のテーマ音楽のような音楽に切り替わり、針を刺そうとする気が萎えてしまう。あきらめてお客さんから風船を受け取り、針をさしてしまう。

感想:

 非常に面白かった。あんなに子供を振り回せば、頭がとれてしまうのではないかとハラハラするようだった。子供もちっとも怖わがらず、演技に非常に協力的だった。実はこの子供、小野坂さんのお孫さんなのだそうだ。

スティングのコメント:

この人の演技を見るのも初めてだったが、パントマイムの基礎の上にマジックを組み立てるスタイルがユニークだった。ショービジネスで鍛えられたエンターティナーという感じ。

FMax Maven

  ホテルの部屋から持ってきたという、電話帳を示す。両手で持って、ぱらぱらとページを送っていくので、ストップをかけて欲しいとお客さんに頼む。「フォース、ジャナイ!」「フェア、デスカ?」などと、おかしな日本語オンパレードで笑わせてくれた。ストップのかかったところでページを開き、「ミギデスカ?ヒダリデスカ?」と尋ねる。さらに、選ばれたページの上を指でなぞるのでストップをかけてくれと頼む。ストップがかかると、1つの電話番号を指差す。「フォース、ジャナイ!」「フェア、デスカ?」を繰り返す。(笑)指された個所をお客さんが読み上げると、「丸井」(関東地域のデパートの名前。電話番号が「0101」であるのが有名。)である。最初に渡しておいた予言のカードを再び示すと。「01」となっている。(「10」をひっくり返して見せる。)

感想:

 フォースはさすがにうまい。確かにフェアにみえる。しかし、マックス名人とは、15年前にハリウッドでお会いして以来だったが、大変太られており驚いた。さすがメンタリズムの第1人者といわれるだけの風格は感じられた。クロースアップショーで、Michael Weberの演技中、彼が少しとまどう場面で、「メンタリズムハ、ムズカシイデス。」などとヤジを飛ばしたりもして、今回のコンベンションでは様々な局面で中心的な存在であった。今回のメンアタリズムのテーマは、初めに示した1つの予言が、一見無関係に思える3つのエピソードに共通した予言になっている、というものであり、今回の演技では若干無理もあったが(マニア相手にはあれくらいでちょうどいいが。)、工夫次第ではおもしろいものが出来そうだと直感した。また、それぞれのフォースも示唆に富んでいるものであった。応用のききそうな、勉強になる演技であった。

Gナポレオンズ

(i) マイクの上部が突然「パカッ!」っと開く。中身はクラッカーであり、マイクの下部の糸をひくと、「パン!」となり紙テープが少し飛ぶ。そのまあ2人は動作を止める。まもなく暗転。(笑)

(ii) 頭が回転する箱。助手の頭に円筒状の箱をかぶせる。窓が空いているので顔は見えている。箱の上部にハンドルがついていて、これを回すと箱の外側がぐるぐる回る。箱の動きに合わせて中の頭もぐるぐる回っているように見える。演技を終えるとなぜか演者は助手の方に手をかけうなだれる。暗転。

(iii) 腕の切断。助手は筒に腕を通す。手には鈴を持っている。筒の真中から金属板で切り分ける。筒の先からは鈴をもつ手がでているが、これを演者がもち、助手から離れ、完全に切り離されていることを示す。

(iv) リンキングリング。2本のみを持って演技。どこからともなく、煙がたちこめかなり大袈裟。つながったりはずれたりすると、助手が「チーン」と可愛らしい楽器を鳴らす。おかしさも極致に達し、思わず吹き出してしまった。(爆)

(v) ゾンビボール。まずは素手での演技。本当に浮かんでいるように見えた。助手が輪を通したりする。いったんテーブルの上の箱(丸い窓からボールが見える)に入れる。窓を布で遮蔽すると次の瞬間ボールは消えている。ボールが布から顔を出す。ゾンビの演技。一旦布ごとステージに置き、それを助手が取り上げて同様に演技したりもする。最後はボールを消して終わり。

(vi) カージオグラフィック。お客さんにカードを選んでもらう(9H)。ホワイトボードに選んだカードの名前を書いておいてもらう。演者もスケッチブックに、お客さんの選んだカードを想像して書いて見せるという。しばらくして演者がスケッチブックに描いた絵をみせる。すると、ハートの5である。演者は困った顔をするが、おまじないをかけると、ハートの5の四隅のハートマークがそれぞれずれて、目の前でハートの9になる。その絵をちぎって、お客さんにプレゼントする。

感想:

 前半のショートショートコントのような演出はおもしろく、みな爆笑していた。ゾンビはすばらしいけれど、直前のナンセンスコメディーには馴染まないのではいか。最後のカージオグラフィックも全体の演技の流れにはそぐわないと感じた。しかし、なぜかこのようなカージオグラフィックのバリエーションが最近大流行であることは事実。

スティングのコメント:

(ii)〜(v)は、ナポレオンズの定番。(i)と(vi)は、新作かも知れない。

総括:

 イリュージョンの対局にあるマジックの面白さを存分に味わうことができたショーであった。プログラムでは、ボードビルスタイル(vaudeville style)のショーであることがうたわれていた。ボードビルとは「寄席演芸」のことであり、マジックの他に曲芸やコメディーを交えたショーをさす。そのねらいがきちんと反映されたショーであった。欲を言えば、ショーの最初にそのようなねらいをはっきり明示するようなスピーチがしかるべき人物からあれば、このコンベンションの全体の目的やその中での本ショーの意味が明白になったのではないか。

スティングのコメント:

このセッションは、トンさんが自信を持って企画したパートのような気がする。以前、マジックランド主催のコンベンションで「コメディーマジックフェスティバル」というのがあった。日本では、なかなか見ることができないタイプのショーだ。

つづく   


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Update: 1999/11/14