最終日は受付けが10時から。レクチャーは人数の関係で2つのグループに分けられた。前半は10時30分〜11時30分、後半が12時30分〜13時30分。私は後半のグループだったので、ホテルには12時30分までに行けばいいことになる。しかし、マニアの心情としてそれでは気が収まらない。10時にはロビーに到着していた。すると、ロビーではMichael Weberのショー(?)が始まっていた。次のような現象が印象に残っている。
(i) 3人のお客さんにカードを選んでもらう。デックに返してシャッフルする。1枚のカードを取りだしそれがお客さんのカードではないことを確認した上で、このカードでお客さんのとったカードを当ててみよう、と言う。デックをフェイス側が見える状態でファンにして、そのカードを空中に投げる。カードはくるくる回転しながら落ちてきて裏向きでファンの真中あたりにささる。ささった部分をよくみせ、ささったカードとその両端のカードを抜き出す。従って、表、裏(投げたカード)、表という具合に重なった状態でテーブルに置くのである。表を向いている両端のカードは確かにお客さんの取ったカードである。まだ当ててもらってないお客さんに、「あなたは何をとりましたか?」と尋ねる。お客さんが答えると、真中の裏向きにささったカードを引き出してフェイスを見せると、それが最後のお客さんがとったカードである(最初確かに異なるカードであったのに、いつのまにかお客さんのカードに変化してしまった。)。
(ii) A4の4分の1くらいの大きさのメモ帳をみせる。ぺらぺらめくってみせるが、目の前で見ても、ごく普通の文具店で売っているメモ帳にしか見えない。1枚ちぎって、メモ帳の上にのせ、お客さんにそこに簡単な図形を描いてもらう。描いたらその紙を丸めてもっていてもらう。メモ帳を受け取り、丸めた紙をながめながら何かを描いていく。お客さんも演者も最後までどのようなものを描いているかは、他のお客さんからはみえない。最初、メモ帳に大きな丸を描き、「これが外観です。」(丸めた紙)と言って笑わせる。次にお客さんと同時に描いたものを公開するが、見事一致している。本人も"real magic"だと言うほどで、非常に不思議だった。尚、このステージ版がディナーショーで行なわれた。
(iii) デックを持ったまま、ボトムカードをテーブル上に飛ばす技法を解説風に見せてくれた。飛ばしたカードを灰皿の下で受けとめ、あたかも灰皿の下から出現したような印象を与えたり、2枚のエースを飛ばしてそのエースに触れるとそれぞれが2枚に分裂(ずれる)して4枚のエースが現われたりするという、この技法のバリエーションを示した。サンドイッチ現象も可能とのこと(2枚のカードを飛ばしてそろえておく。あらためてその2枚のカードを広げると真中にお客さんの選んだカードがはさまっている。)。
(iv) 何度も何度もカードの枚数を数えて行なう数理トリックによるメンタリズム。詳細は不明。お客さんにデックを借りて行なったと思う。
(v) Bruce Cervonの"Pivot Production"の解説。Bruce Cervonはアメリカの学生マジシャン。ボトムカード(リバースしておいた方がよい)をポップアウトさせる。リフルシャッフルをして、カードがかみ合った状態で両手でデック全体を持ち上げる。ボトムカードを密かに中央にずらす。かみ合っている部分の真下にボトムカードがくるように調節するのである。右手でかみ合わせの部分を持ち、左手は離してカットをするようにデックの上半分を取り上げ、テーブルに置く。右手で残りをテーブルの上のパケットに重ねる。現在の状態はリフルシャッフル途中のかみ合わさったデックがテーブルの上にあり、現すカードはその中央真中にセットされている。左右の手で左半分、右半分のパケットをそれぞれつかむが、それぞれの指を中央にある現すカードの両コーナーに触れるような位置におく。(このままでは実際に触れることはできないが。)カードを持ったままで、右手は左前方、左手は右手前に移動する。真中のカードがデックの中央から現われ、両端のパケットと、今現われたカードで逆Z型がつくられる。
スティングのコメント:
私も途中から、マイケル・ウエバーの即席ショーを観ることができた。ロビーに座り込んだ彼の周りには、10人ほどの観客が集まっていた。中には、慶應高校の生徒も混じっていた。このようなリラックスした雰囲気で、次から次へマジックを観られるというのがコンベンションの醍醐味だろう。(ii)のメモ帳の透視術にはビックリした。全くタネが無いような印象だった。 |
昨日クローズアップショーで行なった内容の全てがここで解説された。レクチャーノートが2千円で販売された。ただ、レクチャーノートにはトリックのいくつかしか収載されていないこと、カードの技法については一般的な名称で解説されていないので、翻訳者も詳細不明の部分があることなど、とまどう部分がままあった。しかし、演者自身はFISMの宣伝もあり、終始にこやかでフレンドリーであった。時間を延長してもよいか?という彼の問いかけに会場が拍手で答えるという一幕もあった。
(i) 4枚のエースの出現。このトリックでは4枚のエースをトップに置いておくだけでセットは完了だが、次のマカオ・Aを演じる準備として、トップの4枚のエースの下に黒いスポットカードを6枚置いておく。
第1段: デックから4枚のエースを取り出します、と言ってエースを探すが見つからない。「そうそう、新しいデックに買い換えたのだ。このデックのエースは透明だったんだ!ほら、これがそうです、この当たりに浮かべておきましょう。」と言って、前方に透明なエースを4枚浮かべておくようなジェスチャーをする。両手でデックをカットして半分ずつを左右の手でもつ。この2つのパケットで空中に浮かんでいるエースを挟もうというのである。このとき、彼の考えたポップアップ法を用いる、トップカードを表向きにして両方のパケットで挟むだけだが、本当に突然現われたようにみえる。方法は、次の通り。左手の親指と中指でデックの上半分を取り上げる。右手で同様に下半分を取り上げる。左の人差し指でトップカードを前方にずらす。1枚極端にアウトジョグしているといった感じ。右のパケットをアウトジョグしている端の上にかけて、そのまま下方に払い落とす。アウトジョグしているカードは一瞬曲げられた後スプリングのようにひっくり返って左右のパケットに挟まれて現れるかっこうになる。このようなポップアウト方法は色々あり、友人が教えてくれるが、自分は不器用でなかなかうまく出来ない、それで自分でも出来る易しい方法を考えたのだという。
第2段: デックを4回カットしてから、トップに透明なエースを置く。ひっくり返すと確かにエースである。これを2回繰り返す。(2枚目、3枚目のエースの出現)これはスイーベルカットというカットを用いる。目的はブレークの下のパケットのトップカードが複雑なカットをした後にデックのトップにくるようにすること。もちろん、ブレークから下を全て取って、1回カットをすれば(またはダブルアンダーカットをすれば)現象としては同じである。方法は以下の通り。デックを4つのブロックに分けて考える。A,B,C,D。BとCの間にブレークをつくり、右手でビドルグリップしておく。実際にはブレークの上と下の2つのブロックしかないが、便宜上それぞれのパケットの上半分をA(またはC)、下半分をB(またはD)と考える。4つのブロックを1つずつカウントしながら左手で取っていく。(1回、2回、・・・と4回カットするのだと、演者は説明する。)その際の取り方なのだが、左手の人差し指を、右のデックの左手前のコーナーのいかける。そのままとろうとするブロックを左人差し指で回転させながら左手に取るのである。取っていく順番は、A,D,B,C。するとトップにくるブロックはCということになり、最初のブレークの直下のブロックということになる。このデックの上に透明カードを置いたゼスチャーをしたのち、トップカードを実際にめくってみると、エースが出てくるということになる。
第3段: 4枚目のエースを取ろうと左手を伸ばすと、エースは逃げる。捕まえようとするがつかまらない。両手を、蚊を取るようにぱちんとあわせるとその間にエースが挟まれている。これは左手にカードをパームするだけ。最初、第1段のように両手でパケットを持って挟もうとする。このとき既に左手にエースをパームしておく。エースが素早く動くので、無意識に2つのパケットを棄てて、両手でぱちんとつかまえた、といったジェスチャーで行う。
(ii) マカオ・A (Les as de Macau) レクチャーノート参照。Peter Kane のJazz Acesのハンドリングを彼がアスカニオの影響下でハンドリングを変えたもの。4枚のエースと、4枚の黒いスポットカードの交換現象。エースを1枚ずつ3枚の黒のスポットカードのパケットに加えて行くが次々に消えていき、代わりにテーブルに置いた黒のスポットカードがエースになる。(i)のクライマックスでお客さんが驚いているときに、カードを1枚パームしてしまい、「それではエースは脇へおいておきます。」と言って脇へやるときに、パームしたカードを1枚、エースだけのパケットに加えてしまうところが、レクチャーノートには示されていなかった。少なくとも私には非常に印象の薄いマジックで、このレクチャーノートを読んでもレクチャー内容がにわかには再現できなかった。
(iii) 一瞬の出来事(Effect en une seconde) レクチャーノート参照。「1,2秒で出来るマジックをご覧にいれます。」と言って、演者は自分の腕時計を指さす。お客さんにデックからカードを選んでもらい、戻してもらいシャッフルする。トップカードをめくると、お客さんのカードではない。裏向きにしてもう一度表向きにすると、お客さんのカードに変化している。よくある現象なので、お客さんがあまり感動した風でもないのをみて、「本当に1,2秒でやったんでっすよ!」と言ってデックを取り上げ上半分を持ち上げると、そこから演者の腕時計が出現する。
(ここで休憩)
(iv) 2枚のカードの交換。2人のお客さんにそれぞれカードを選んでもらい、サインもしてもらう。1枚のカードをポケットにしまい、残りのカードを示す。一瞬にして、手に持ったカードとポケットのカードが入れ替わる。1枚の余分なカードを使い、それをポケットにしまう。2枚の重なっているお客さんの選んだカードを巧みに扱いながら数回チェンジしたように見せるもの。レクチャーノートにも記載がなく、解説も簡単だったので詳細はわからなかった。
(v) アンビシャス「ティア・オフ」プラス(Ambitieuse "tear off"
olus) レクチャーノート参照。第2日目、「クロースアップショー」の演技解説参照。
(vi) ネクタイのちょうど真ん中のに指輪を入れて縫いつけておく。ネクタイは袋状になっているので、その中に入れておく。さらに、ネクタイの細い端はあとでお客さんのリングを通す際に引っかかるのを防ぐため、きちんと縫い合わせておく。上着の左ポケットには家の鍵を、右ポケットには安物の指輪をつけたキーケースを入れておく。演技は第2日目、「クロースアップショー」の項を参照。指輪が上着の左ポケットに入れておいたロープから消えているのを示した後、左手で左ポケットを探る。その際、指輪をパームして家の鍵を取り出す。「家の鍵しか入っていませんでした。」と説明する。さらに、キーケースを取り出して、解説で述べたようなパロディーを行う。ネクタイの結び目に異変があることに気づいたといった演技で、演者はお客さんに結び目を触らせる。ネクタイを緩めるときに、ネクタイの細い端から指輪を入れる。首の部分をさらに大きくして、ネクタイを頭から抜いてしまう。会場のお客さんにネクタイの太い端を渡し持っていてもらう。さらに、細い端を別のお客さんに持ってもらうときに、短い端に通した指輪を、結び目の所まで滑らせて持ち上げる。首の輪を今度は小さくしていく。そのときに指輪をネクタイの結び目の中に入れてしまう。(途中、確かに指輪が入っているかどうかお客さんにネクタイの結び目に触らせて確認する。)ネクタイの両端を引っ張ってもらうと、結び目はとけ、お客さんの指輪が現れる。
尚、ロープから指輪を抜き取るところの説明は簡単なものであり、よくわからなかった。
アンビシャス「ティア・オフ」プラスと、ネクタイに通る指輪は前日のショーでもとても受けていた。これだけ覚えるだけでも、今回のコンベンションのもとは取れたと思えるくらいであった。特にネクタイに通る指輪はうけていた。最初にダミーの指輪を触らせて、お客さんには最も困難なことをやってしまったと思わせておいて、実はその後からゆっくりとかつ堂々とその「難事業」を行ってしまうという発想が面白かった。通常マジックは現象が起こるずっと以前に準備が整ってしまっている場合がほとんどだからだ。時間がなくて十分解説がしてもらえず消化不良になってしまった部分は残念であった。
スティングのコメント:
レクチャーを受けても、マジックそのものは覚えられないことが多い。しかし、作者自身が考案した作品の解説を聞くのは楽しいものだ。ペドロ・ラシェルダ氏の人柄を感じさせる有意義なレクチャーだった。 |
Copyright © 1999 Shigeru Tashiro & Yasuo Nakamura. All rights reserved.
Update: 1999/11/10