Dr. Tashiro のマジックレポート (No.1)

世界マジック・フレンド・コンベンション
(World Magic Friends Convention) 

第2日目 (10/9) : 

カップス&ボールズの歴史とショー

クロースアップ・ショー


(3)カップス&ボールズの歴史とショー

 まずは、小野坂氏の挨拶。カップス&ボールズの歴史を鳥瞰する上で、西洋のカップス&ボールズの他に、中国の「お椀と玉」、インドの「ヒンズーカップ」の3つの演技をその道の名人に演技してもらいたかった。しかし、ヒンズーカップは今回実演してもらうことができなかった。インドの行者のような人でヒンズーカップをする人がいるが、その人は普段は山奥に住んでおり、街には年に何回かしか現れない。招待することが困難だった、とのエクスキューズ。このような試みをしようとしたきっかけは、小野坂氏が海外のコンベンションで次に登場する、ボブ・リード氏の講演を聴いたことだという。今回は、ボブ・リード氏はそのときの再現に近い内容で講演することになるとのこと。

@Bob Read(イギリス)

 スライドショー。大真面目な顔をしておかしなことを言うので会場は何度か爆笑した。唐突な次のような話から始まった。「私がこの間、今からお見せするスライドを持って歩いていましたら、向こうからも同じようにスライドを持ってこちらに歩いてくる男がいました。運悪く私たちはすれ違いざまに接触して、二人ともスライドを落としてしまい、二人のスライドは混ざり合ってしまいました。そのため、今からお見せするスライドの中には、そのときぶつかった男のもっていたスライドが混ざっているかもしれませんので、ご了承下さい。・・・・それでは今から148枚のスライドをお見せします・・・・いや、失礼48枚でした。」スライドの詳細は冊子に記載されている。ヨーロッパ各地に残る芸術作品の中に見られるカップス&ボールズの実演の様子などを詳細に考察して、その結果から演繹されるヨーロッパ各地でのカップス&ボールズの歴史的つながりについての氏のお考えを披露された。途中2度ほど、ヌード写真のスライドが投影されたりする。「ああ、これはぶつかった男の持っていたスライドでしょう。」などととぼける。また、「起きていますか?」というコメントのスライドも投影され、飽きさせないような工夫が随所にみられた。

スティングのコメント:

世界最古のトリックと言われる「カップと玉」の歴史を考察するというユニークなセッションだった。ボブ・リード氏は、このテーマに魅せられ30年以上も研究しているそうだ。版画や印刷物の絵画のコレクションも豊富で、最も古いものは1943年出版の木版画。ちなみに、左上の画像は、1799年ごろの「シャポニエ」の作品。

ADavid Ben(カナダ)

 へびの形をしたウオンドを使用。向きによって、ウオンドが曲がったりまっすぐになったりして見える。聖書に、モーゼとアロンがエジプト王に対し、人民を解放して他の地へ移り住めるよう嘆願した話がある。モーゼの使命が神の命を受けた者であることを証明するため、彼は持っていた杖をヘビに変えたというが(ターベルコース第1巻、P21参照)、これにあやかったものなのだろう。イギリスで1903年に著されたチャールズ・バートラムの、モダンコンジュラー(Modern Conjurer) に記されている手順をみせてくれた。手順はスピード感がなく、あまり面白いものではなかった。最後のレモンのスチールでレモンが見えてしまうなどのアクシデントもあった。

スティングのコメント:

デビッド・ベンは初めて見るマジシャンだったが、あまり印象に残らなかった。

B楊宝林(Yang Baolin) (中国)

 ボールの上にお椀をふせる。お椀を取るとボールは玉子に変わっている。ボールからお酒を出す。大きな布をもって、「でんぐりがえし」をすると、金魚が泳ぐ金魚鉢(洗面器のようにひらたい形のもの)が出現する。2つのお椀と3つのボールの手順。最後は2つのお椀の口と口を合わせて再び片方のお椀を取り除くと、パールが山盛りになっておりこぼれ落ちる。パールが出るところは新鮮味があり、うけけていた。

スティングのコメント:

中国の金魚鉢の取り出しは、久しぶりに見た。最近では、全く見かけなくなったマジックである。

全体の感想:

 20世紀が終わろうとする中、マジックの歴史を一撫でするような企画をしようではないかと考え、さらにそれを具体的に考えるための題材として、カップスアンドボールズを選択した点は、素晴らしいと思った。しかし、考えてみればそれだけでも壮大な難事業であり、きちんとした形でそれを遂行するのは至難の技だろう。基調となる講演も西欧の事情は詳細に述べられたが、それが中国やインドにどのように関係しているのかについては全く触れられなかった。(その後中国の方の演技があったが、やはり唐突な印象は否めなかった。)例えば、私たち日本の研究家による総論的な講演と、その方による司会進行や出演者とのディスカッションなどを行なってもらえれば、全体的にまとまった印象になったのではないだろうか。後半の演技も、ただ演技をするのではなく、レクチャー風にその演技の歴史的背景などの解説があればさらに実りあるものになったのではないか。現在、マジックの世界でも爆発的に情報量が増えていることを考えれば、今後歴史的立場に立った意欲的な研究がどんどん出てきてよいと思う。そのような研究は、趣味として十分興味深いだけでなく、新しいマジックの創造にも多いに役立つものだと思う。

(4)クロースアップ・ショー

 プログラムのMac Kingは取りやめ。代わりにBob Readが出演。また、Tom Stoneの代わりにMichael Weberが出演。司会は下田結花さん。通訳はMax Maven氏。 

@Pedro Lacerda(ポルトガル)

 来年のFISM2000のsales manager(FISM2000の日本語のパンフレットには「経営委員」と紹介されていた。)クロースアップ・ショーが始まる前に司会者が、「指輪を貸してくれるお客さんはいませんか?」といって、協力者を募っていた。男性ものの、石のついていない大きな指輪が必要だとのこと。貸してくれるお客さんが現れたら、演者自身もその指輪を確認するほどの念の入れよう。尚、翌日のレクチャーでこのショーの内容の全てが解説された。彼は7才のとき、アマチュアマジシャンだった父を失う。12才の時、父親のマジックの遺産を「再発見」し、彼自身もマジックをするようになっていったのだという。15歳時にポルトガル最大のコンベンションでステージ部門優勝、17歳時には同クロースアップ部門優勝。以下の演技の詳細は3日目のレクチャーの項も参照。

(i) お客さんに指輪を借りる。60センチ程度の赤い紐に通し、2つに折り、そのまま紐の中央付近を2本一緒に結んでしまう。これは、ショーがうまくいくためのお守りです。と言って、上着の左ポケットに入れておく。紐の両端はポケットから出しておき、演技中常に見えるようにしておく。

(ii) カードを取りだし、「エースを4枚使います。」といい、エースを捜す。「忘れていましたが、カードを最近買い換えたのでした。このデックのエースは透明なのです。今、目に見えるようにしてみましょう。」といい、次々にエースを現す。

(iii) 2人のお客さんに1枚ずつカードを選んでもらいそれぞれ表にサインしてもらう。現象がはっきりするように、男性は黒、女性は赤を選んでもらう。(2HとJC)1枚は上着の左ポケットにしまっておくが、しまったはずのカードとのこっているはずのカードが何度も入れ替わってしまう。(このとき何度か上着の左ポケットに手をつっこむが、指輪を操作するチャンスも十分にあると思われた。)

(iv) 万能モンテ(Bonneteau tout terrain) レクチャーノート参照。スリーカードモンテ。途中で1枚のカードの角を折って見せるがそれでも当たらない。最後に、1枚だけ裏の色が変化する。

(v) アンビシャス「ティア・オフ」プラス(Ambitieuse "tear off" plus) レクチャーノート参照。お客さんが選んだカードの1角(1/4)を切り取って、切りはしは上着の右ポケットにしまっておく。1角を破ったカードをデックに入れて混ぜても、それはトップにもどる。再び混ぜると、今度はお客さんの選んだカードがデックの中からせり上がってくる。お客さんの選んだカードにおまじないをかけると、1角を切り取ったはずなのに、元通りになっている(完全な1枚のカードになっている)。「『じゃあ、ポケットの中の切れはしはどうなているのか?』とお尋ねになりたいのでしょう。」といって、右手で右ポケットをさぐる。右手にはなんと、たくさんの切れはしが入っている。これをぱらぱらとまく。手に持っているデックをみると、信じ難いことだが、全てのカードの1角が切り取られている。これもステージにぱらぱらとまく。

(vi) 「おかげさまでよいショーが出来ました。お守りに使わせて頂いた指輪をお返しします。」といって紐をひっぱる。すると指輪は消失している。ちょっと考えて、ズボンのポケットからキーケースを取り出す。中を見ると安物のリングがくっついている。「これですか?」(貸したお客さんから『違う!』との指摘がある。みるからに安ものの指輪である。)「(困ったような表情で)・・・これで勘弁して下さい。」などと言って笑わせる。その後、ちょっと焦ってきた様子でうろたえてみせる。頭に血が上って暑くなってきた、というジェスチャーで、ネクタイをゆるめる。ここでちょっと驚いた風に、お客さんに、「ちょっと結び目を触ってみて」と言う。結び目の中にリングがあるようだ。ネクタイをはずす。(細い端をゆるめて、首の輪を大きくすることで、ネクタイをシャツから外す。さらに両端を左右の手でもって外したネクタイを示す。まだ結び目は中央に残ったままの状態。)ここでネクタイの両端を引っ張ると、結び目が解けて指輪がくるくる回っている。確かにお客さんから借りた指輪である。

感想:

 アンビシャス「ティア・オフ」プラスは、非常に不思議であり、場内も大変盛り上がった。デックのスイッチがおこなわれたのではないかと思ってしまった。これだけ現象がはっきりしていると、カードマジックでもかなり強烈な印象が与えられるものだと思った。最後の指輪のマジックも、文章で読む以上に不思議に思われた。いつのまにネクタイに通っていたのだろうというが強く残った。最後にネクタイの両端をひっぱると、結び目がほどけて、リングが回転して現われるところは劇的であった。このような「見せ方」により、同じマジックでもお客さんの印象は大きく変わるものだと強く感じた。

スティングのコメント:

私も、アンビシャス「ティア・オフ」プラスとネクタイと指輪のマジックが不思議だった。やはり、一流のマジシャンというのは、独創的でインパクトの強い作品を持っている。

AMichael Weber(ロサンジェルス)

(i) フルーツを3種類見せる。2つを会場に投げ、残りのグレープフルーツを手もとに残しておく。お客さんにステージに上がってもらい、グレープフルーツを調べるように言う。お客さんが調べて演者に返すと、「もっと丁寧に調べて下さい。」と突き返す。グレープフルーツの中の房はいくつあると思うかと、お客さんに尋ねる。お客さんは「11」という。すると、演者はグレープフルーツを手に持っておまじないをかける。お客さんにナイフを手渡して輪切りにしてもらう。房の数を数えてもらうと確かに「11」である。

(ii) 箱に5円玉がたくさんはいっている。この5円玉をショットグラスですくって適当な枚数をとってもらう。まず、その枚数を当てる。このショットグラスの中から、5人のお客さんに1枚ずつコインをとってもらう。平成何年のものかを当てる。5つの年号を次々に言っていく。当たった人は着席するように伝える。演者が年号を言うたびに、お客さんは着席していく。5つ目の年号を告げると、最後まで立っていたお客さんが着席する。

(iii) 会場のお客さんからカードを借りる。1枚とってもらいデックに戻す。箱にしまい、会場にいる、Mac Kingを呼ぶ。彼に箱ごと手渡し、「さあ、当ててごらん!」という。マックはカードを取り出し目を通し、カードを当てる。

(iv) ネクタイをいじっていると、次第にのびていく。途中で「結び目をちょっと触ってみて!」と、ペドロ・ラシェルダー氏の真似をして笑わせる。

(v) 紙袋を示し、「このなかに小さい人間がはいっている。本物の人間がはいっています。人形ではありません。」という。1人だけ、会場からお客さんを選び除いてもらう。お客さんはひどく驚く。何が起きたのかわからないため、会場はざわめく。それで終わり。

感想:

 大変楽しいショーであった。グレープフルーツのトリックでは何を隠そう私がステージに上がり「11」と言ったのだ。もちろん事前打ち合わせもなかった。房の数は、へたをとって白いぶつぶつの数を数えるとわかる。実際、調べたグレープフルーツのへたは取ってあった。ただ、「11」以外の数字を言ったらどうするつもりだったのか、まったくわからなかった。(グレープフルーツはおみやげに持って帰れというので、持って帰り、ホテルの部屋でもう一度房の数を詳細に数えなおしてみた。確かに房は11であった。)(ii)では、日本のコインには西暦はないの?と通訳に尋ね困った表情をするところが芸の細かさだと思った。(その後、「ヘイセイ6ネン!」などと、片言の日本語で次々に当てていった。)(iii)は、キーカードを使ったのだと思う。2人は事前打ち合わせをしたのかしなかったのか、ちょっとした話題になった。(v)は何が起きたのか不明。選ばれた人は通訳の柳田氏であった。

スティングのコメント:

マイケル・ウエバーの演技を見るのは、1994年のFISM横浜大会以来だった。相変わらず、ユニークな発想のマジックで楽しませてくれる。マック・キングを突然呼んで客のカードを当てさせる掛け合いが興味深かった。おそらく事前の打ち合わせはなかったのだろう。先日、知人のアマチュアマジシャンが観客の私に同様な趣向を盛り込んだマジックを演じた。突然の指名で、最初は戸惑ったが、なんとか隠されたメッセージを解読し、客の選んだカードを当てることができた。「打ち合わせなしにマジシャン同士が秘密のメッセージを伝える」というテーマは、研究対象として面白いのではないか。

BBob Read(イギリス)

 会場のお客さんを3つに分ける(右の列、中央の列、左の列)。さあ、ムーンライトセレナーデをハミングしろ、と言う。こっちは主旋律、ここはときおり入る「たらった、らら」とハミングしろなど、色々注文をつける。やっと気が済むように会場のお客さんが協力してくれるようになったと、納得したらしく、いよいよ演技にとりかかる。シルクを取り上げ、結び解けをしようとする。しかし、途中で「ハミングが駄目だ!」と、シルクを投げ捨て怒り出す。ボトルの取りだし。カードスライト。(この当たりは詳細不明)テーブルに4つのコインをマトリックス状に並べる。「ダイ・バーノン、スライディニー、ゴッシュマン、・・・さあ誰のルーティンがいい?」と聞く。会場から声がかかるとその真似(話し方や身振り)をしてみせる。(ほんのサワリだけで、演技はしなかった。)続いて「テーブルを通り抜けるコイン」を演じる。思いっきり手をテーブルに打ち付けて「あいたた!」というリアクションもこれほど趣のある老人が演ずると大変おかしい。その後、テーブルの下の手からは三角の木片が現れる。会場は爆笑。照れ隠しにその木片で電話をする振りをしてみせる。「それではカップス&ボールズ。」会場のお客さんにハンカチを借りる。(マジックハンドを取り出して、それでハンカチを受け取る。マジックハンドは操作すると伸び縮みする構造であり、人をくったような印象で大変おかしかった。)取り出したカップをそのハンカチでふく。終わったら、投げつけるようにしてお客さんに返す。「カップはこのように金属製のものと、紙製(紙コップ)、陶磁器製(マグカップ)のものがあります。」と言って3つ並べる。ウオンドは黒で両端が白いものだが、突然片方の白い部分がなくなってしまう。そうこうするうちに、片方の端に2つ分の白い端ができていたりする。その後も、カップス&ボールズの手順をコミカルに演ずる。詳細は不明だが、何かに指が入ったまま抜けなくなったり、腕時計が壊れたりして会場を沸かせた。

感想:

 余裕たっぷりのいかにも大御所の演技であり、一番笑った。ハンカチを借りるところなども、ボブ・リードだからうけるのだし、許されることなのであろう。さすがにカップス&ボールズの最後の果物(だったと思う)のスチールはうまかった。日本の名人の落語のような趣もあり、「芸」という次元の演技というものが、洋の東西を問わず存在するものだ、ということも再認識させられた。

スティングのコメント:

とにかく、文句なく楽しめる味のある芸だった。トンさんが最後のスピーチで、次のような趣旨のことを言われたのが印象に残っている。

「欧米では、年をとっても第一線で活躍しているマジシャンがたくさんいる。日本では少ないので、是非そんなマジシャンを紹介したかった。」


つづく   


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Update: 1999/11/13