Dr. Tashiro のマジックレポート (No.1)

世界マジック・フレンド・コンベンション
(World Magic Friends Convention) 

第3日目 (10/10) : 

FISMレディース・マジシャン・コンテスト
FISM2000とコンテスト発表


(3)FISMレディース・マジシャン・コンテスト

 小野坂さんが強く希望されて行なった、世界的に見ても希な女性マジシャンのみのコンテストである。1年以上の時間をかけて、小野坂さん自身が各地のコンテスト会場に足を運び、コンテスタントを選んだという。幕が開くとステージには巨大なスクリーンが設置してあり、女性マジシャンのステージでの活躍ぶりが次々に映し出される。そして、司会者のナポレオンズのパルト小石さんが登場。(ボナ植木さんは、審査員席だった。)今回のコンテストでは、FISM2000のチャレンジャー以外に、来年ミシガンで開かれるアボットの大会への招待マジシャンも決めるという。アボットの大会とは、アボットという地元のディーラーが62年間開催し続けているマジックコンベンションであり、小さな人口1500人程の村で開かれる。大会期間中だけは村の人口が一挙に倍以上に膨れあげるため、宿泊場所の提供(民家をホテル代わりに使ったりするらしい)など色々な面で一般の村人たちも大会に協力するのだという。小野坂さん自身がその説明をされ、ご自身も来年は是非アボットの大会にも参加したいとおっしゃっていた。次にコンテストの審査員が紹介された。全員がFISMのコンテストで入賞された方々とのこと。YUKA(88年オランダ・ゼネラル部門3位)、深井洋正(85年スペイン・ゼネラル部門2位)、マーカテンドー(85年スペイン・マニュピレーション部門2位)、ボナ植木(88年オランダ・イリュージョン部門3位)の4名。

@菅谷さおり

 98年なにわのコンベンションで優勝。まずは後ろをむいたまま幕が上がる。両手を伸ばすと手のひらから火が出ている。正面を向きウオンドの演技。マントをして、ごついサングラスをかけているので驚いた。マントは脱いで後ろのスタンドに掛けておく(広げた状態で)。分裂ウオンドの演技。ダブルダンシングケーン。最後にケーンを消してしまう。黒いシルクを用いて次々に3本ケーンを出現させる。ミリオンフラワー。一輪のバラを使って、ウオンドの消失・出現の技法で、消失・出現をみせる。花がとれ、再び現れる。最後に一輪のバラはケーンに変わる。首に結んである赤いシルクをとり、結ぶと2本のケーンの出現。ケーンを体の前でクロスさせると、大きなシルクが2本ケーンの間に出現する。(ケーンの先にシルクがくっついている)そのシルクの陰で黒かった衣装を赤に変える。さらに、青い衣装に早変わりし、最後にマントの陰で白いドレスに早変わり。

感想:

 炎、ケーン、サングラス、マント、と女性にはあまりなじまない道具立てであった。演出上どのような意図があるのか伝わってこなかった。アピアリングケーンのプロダクションはスムースであるし、スチール方法も工夫が凝らされていた。しかし、不思議さという観点からはやや弱いものがあった。その点バラのアクトは綺麗で、不思議でもありよかった。最後の衣装替えはとってつけたような印象があり、マジックらしさも感じられなかった。もう少し、その人らしさを感じさせるような演出がなされれば、ぐっと引き立つ演技が出来たのではないだろうか。

スティングのコメント:

外見から受けるイメージと演技の内容にギャップを感じた。演技の内容は、男性的な強い動きが基調になっていたように思う。2本で行なうダンシング・ケーンは初めて見たが、効果としてはマイナスな感じがした。しかし、個々のマジックについては、十分な練習がなされていてレベルも高かった。

A鈴木ます江

 今回のコンベンションの初日に10月8日に清水市にオープンした、エスパルスマジックホールのプロデューサーである蓮井 彰氏の推薦。1枚のシルクを結び2枚に分裂。もう2枚足して、4枚のシルクを示すと、大きな1枚のシルクになってしまう。ファンカード。ファンに広げ、閉じ、シャッフルして、2つのファンをつくる。シルクの振り出し。カラーチェンジングケーン。最後はケーンが消えて、細いのべシルクになる。シルクを結ぶとケーンが出現。1本のケーンを持ったまま、1回転ターンすると、ケーンは2本になっている。さらにそれぞれのケーンが分裂して4本になる。ケーンが毛花に変化。シンフォニーリング。

感想:

 ファンカードの演技を行うならもう少し時間をかけてたっぷりと演技された方がよかった。ケーンの演技は不思議さもあり、悪くはないけれど、ケーンという素材よりもっと演者にふさわしい素材が他にあるような気がしてならない。オープニングの大きくなるシルクは、昔からあるタネとは全く異なるものが最近出回っており、流行の一つといってよいだろう。(この演技ではどちらの方法が使われたのかは不明だが。)商品名は「ブレンドスカーフ」で、イタリアのドミニコダンテ氏の許可のもと、UGMが発売している。昔のものも、新しいものも、共によいマジックであると思う。

スティングのコメント:

アマチェアの女性マジシャンとしては、立派なレベルだと思う。ただ、道具・素材の方が全面に出ていて、この人の個性があまり伝わってこない印象を受けた。

B武藤桂子

 後ろ向きに座った状態で幕が開く。後ろ向きのまま紫色のシルクを振り出す。正面に向き直り、金の扇を出現させる。ウオンドの消失・出現の技法で、畳んだ扇で消失・出現を見せる。イヤリングにしていた鈴を外して扇でそれを隠すと、大きな鈴に変化する。扇が分裂して3つになる。(テーブルに扇のスタンド用ボードが立っており、効果的に使用されていた。)金色の小さな扇(ミリオンフラワーの倍くらいの大きさ)のプロダクションと色変わりや分裂。シルクの振り出しをからめる。小さな赤いウオンド(ロウソク?)を4つ玉のように指の間で増加させ、両手で8つにする。赤い扇が次々に3つに分裂する。シルクをかけると大きな扇に変化する。普通の舞扇を体の後ろに回して再び正面に持ってくると、赤が緑に変化する。何度か繰り返して最後には両面を見せる。また、扇の紙の部分をなでると、目の前で色が変わっていく。(紙の部分は当然扇形になっているが、その扇形の外側半分の大きな扇形部分が赤で、内側半分の小さな扇形部分が白。外側部分だけ色が変わるようになっている。)2つの舞扇が同時に突然現れ、舞扇のプロダクションとなる。和傘が出現。和傘を後ろにさし、顔を舞扇で隠し見栄を切る。もう一度扇を下に降ろし笑顔をみせる。

感想:

 テクニックも十分にあり、安定した演技でもある。このコンテストでは最もよかったのではないかと思われた。しかし、舞扇や和傘をもったときの形にめりはりがなかったため、もうひとつ決まらなかった。振り付けをもう少し研究するとぐっと輝くのではないかと思った。また、途中カラーチェンジなどでもたつき演技の流れを乱したので、すこし内容を整理したらよいのではないか?

スティングのコメント:

たしか、前回のFISMコンテストにも出場した学生マジック出身の演者だったと思う。印象は、かつて下田結花さんが表現した世界に似ている。手順はオリジナティに富んでいるが、まだ身体の動きがついていってないように思える。特に腰が落ちたポーズは、どこか不自然さを感じる。

C三賀美&リトルウィッチー

 「さがみ」と読むそうだ。和妻風のセット。枯れた桜の枝を持って登場。ミリオンフラワーのような毛花を取り出す。毛花を枝につける。布で出来ている巻物を取り出す。巻物を読むかのようにするすると広げていく。広げた巻物をたぐると中から大きな桜の花の咲いた枝が出てくる。(かさばるものではあり難しいとは思うが、出現する際にかなり時間がかかってしまった。)ここでナレーションが入る。巻物を盗もうとする忍者と、それを守ろうとする女の戦いであるとのこと。着物をきた怪しい女性登場。演者が怪しい女の着物のはしを引くと、着物はするするとほどけ、反物のような布になってしまう。すると怪しい女性は忍者の姿を露わにする。剣をもっての格闘。アクロバットのような演出で気迫がこもる。演者は忍者を箱に入れ8本の剣を刺す。剣を抜き箱を開けると、忍者は美しい着物姿になっている。(よい人になったという意味だろう。)巻物をたぐると中から大きな布が出てくる。その陰で演者は早変わり。美しい着物で登場。

感想:

 斬新な試みに、好感がもてる。巻物、といった従来マジックの素材にはならなかった素材を用いる点など、工夫が光る。忍者の着物をほどくと反物になってしまうところは非常にみごとであり、このショーの中では一番よかった。(これは、たとえば歌舞伎の世界などにこれまでもあったものなのだろうか?)ただ、その後の忍者との格闘はいまひとつ全体の流れにそわない。剣箱もストーリーの上からはわかるが、着物の女性が演じるのには少し無理がある。出し物を少し変えるとよかったのではないか?ナレーションも取り入れ音響に力を入れていた点は評価できる。全体として、マジックとしての色彩が弱くなってしまった点が大きなマイナス要因ではなかったか?

スティングのコメント:

三賀美さんは、藤山新太郎師が期待をかけている女性プロマジシャンである。和妻の新しいスタイルを追求しているという点では貴重な存在だろう。今回の演技に関しては、あまり印象に残らなかった。

D佐野玉枝

 丸いリングが四角になる。さらにそれがケーンになる。ああいう古いマジックも工夫次第で面白くなるものだ、と感心していたら、あとでそれはUGMで売っているものだと判明(ファンマヨーラルのスケアーサークルケーン)し、さらに驚いた。白いシルクが分裂し2羽の鳩が出現。ネットイリュージョン(UGMの商品。昔これに似ているもので、ベンガルネットというのがありましたが・・・)、すなわち、裏地が黒い布になっている網に白いシルクを入れる。ケーンを出現させ、これで合図をすると網の中のシルクは鳩に変化する。小さくなるカード。ファンにしたカードが突然シルクハットに変化する。(カードtoハットというUGMの商品)黒、黄色、赤のシルクを2枚ずつ見せる。3枚は助手に渡す。3枚のシルクが1枚の大きなシルクに変化。残りの3枚を助手から受け取ると、中から鳩の入ったかご(「アピアリングゲージ」という商品名でUGMからも発売されている。)が出現する。シルクを結ぶと、結び目は床に落ちる。もう一度同じことをして、シルクを広げると、シルクには2つの丸い穴があいている(「落ちる結び目」という商品名でUGMからも発売されている。)。そのシルクから突然きらきら光る直径1mくらいのファンが出現し、それが分裂して2つになる。空中鳩すくい(UGMでも発売している)にて、鳩を2羽出現させる。1羽を空中に放ると、蜘蛛の糸となる。

感想:

 松旭斎ファミリーの演技を彷彿とさせるような、演技であった。危なっかしいところもなく、十分楽しめるショーであった。しかし、国際的なコンベンションのコンテストなのであるから、お客さんや審査員にアピールする点を明確にしてもっと強調すべきではなかったか?確かに、マジックの道具はかなり優秀なものでも手軽に買い求められるようになった。日本のディーラーの数自体も増えたが、海外のディーラーから個人でも手軽に購入出来るようにもなった。このような状況下であるので、たとえばクロースアップマジックショーでも、かなりのディーラーズアイテムが使われるようになっていると思う。従って、市販の道具をたくさん使っているからということで、特にジェネラル部門においては減点の対象とすべきではないだろう。だが、そうであるからこそ、市販の道具をいかに利用して自分らしいショーができるか、という点をよくよく研究すべきであろう。

スティングのコメント:

田代さんの感想を読んで、UGMの商品がこれほど多く使用されていたことを初めて知った。たしかにUGMの商品は、すぐステージで使えるような実用的なものが多い。しかし、コンテストの場合には、逆効果になるだろう。

Eゆみ

 SAMの東京大会のステージ部門コンテストで優勝したとのこと。背景のついたてがセットしてある。最後まで演技とは関係なく、意図が不明。白い一輪のバラを持って登場。突然バラは白と緑のシルクに変わってしまう。緑色のシルクから白いボールが出現する。花のついていない花の枝にボールを近づけると、ボールがバラの花に変化する。花はテーブルの花瓶にたてておく。また白いボールを出現させる。4つ玉の演技。4つの玉を慈しむように1つ1つ丁寧にテーブルの上のカゴに入れるのが印象的。テーブルの花の枝に白い花が5輪ほど咲く。小鳥のさえずりが聞こえると、さらに赤い花が咲く。赤い花を一輪取り出す。花びら(羽毛)がはらはらと落ち、枝も折れる。ファンカードとマニュピレーション。(あまり見かけない赤と白の色が半々についたカードを使っていた。)緑のシルクを結ぶと2枚に分裂する。テーブルからもう1枚の緑のシルクを取り上げる。3枚のシルクを合わせると、ファンテンシルクとなる。(白、淡い桃、桃、赤)折れた花の枝はまっすぐとなり、白い花が咲く。

感想:

 メルヘンチックな雰囲気で悪くない。四つ玉や、カードなどテクニックもしっかりしている。演出もまとまっており、表情や動作もあか抜けている。また、シルクの色使いなどにも全体の雰囲気を反映させており、細かい点にまで注意が払われている。また、最初の、バラが2枚のシルクに変化するアクトは見事だった。一つのルーティンとして完成されており、コンテストで問うだけの演出上の新鮮味も備えていることは認められた。(彼女が優勝し、アボットのコンベンションにも招待されることになった。)FISMのコンテストでは、ジェネラル部門の他にマニュピレーション部門があるので、マニュピレーション部門での出場となるのであろうか?本コンテストでは、その辺りのコンセプトもはっきりしないので、他のコンテスタントと単純に比較することは出来ないと思われる。そのあたりの説明がはっきりなされるべきではなかったか?

スティングのコメント:

ゆみさんの表現したい世界がストレートに伝わってくるような素晴らしい演技だった。衣装・小道具・音楽・照明・手順・動作などトータルなコーディネーションが完璧に近かった。私は彼女の演技(当時、渡辺由美さん)をFISM94横浜大会でも観ているが、ここまでマジックを追求する姿勢は実に爽やかだ。

F江沢ゆう子

 大きな傘をさしてその陰に隠れるようにして立っている。祭りばんてんをきて賑やかな雰囲気で姿を現す。2つの金のお椀を合わせると中から酒が出てくる。飲み干しては同じ演技を繰り返す。次々にお酒が出てくる。非常に不思議だった。(Arsene Lupinというポーランドのマジシャンが、UGM主催の第4回ワールドマジックセミナーJAPANのキャバレーショーで演じ、その後、UGMが販売したスプリングという商品であるということがあとでわかった。)2つの銀筒(底と足がついているタイプ)にそれぞれ紙を入れ、燃やす。両方の筒から銀の砂が出現し、その砂を手に掛けるとメタルテープが手から流れ出る。もう1本こんどはメタルテープを投げる。ピンクの紙に点火するとフラッシュする。演者が1回転ターンをすると、手に扇が現れている。紙吹雪。扇を床に平行に持って構え、扇を客席側に少し傾けると、絹ののべがするすると扇から流れ落ちていく。扇で演者の顔を隠し、再び扇を取ると、演者はひょっとこのお面をかぶっている。金のお椀から酒を出すえんぎをここでまた繰り返す。円筒形のテーブルが突然フラッシュして、2倍以上の高さになる。(演者の身長以上になる。)テーブルから幕を引き出し、幕の陰で早変わり。のぼりを持って火事装束で登場する。

感想:

 表情もよく、派手でお客さんにもよく受けていた。のべやお面の出現など、テクニックもあり、入賞してもよかった。ただ、中心になるお椀からお酒を出すマジックは不思議でよいマジックだとは思ったが、コンテストに出すとなると、もう少し工夫がほしかった。これだけの演者なのだから、ルーティンをもう一工夫すればよかたのにと、少し残念にも思った。

スティングのコメント:

江沢ゆう子さんは、八王子マジックグループに所属するアマチェアマジシャンだが、数々の国内コンテストでの受賞歴をお持ちの実力派。今回はいよいよFISMにチャレンジするという意欲は十分。独創的な手順と豊かな表現力はアマチェアとしては図抜けている。今回は惜しくも入賞を逃したという印象だった。

(4)FISM2000とコンテスト発表

 第12回厚川賞はYASUYUKI氏(ボナ植木氏)に決定。FISM2000のコンテスタントを観客が選ぶという試みも、有効投票数123のうち、約65%を獲得して、YASUYUKI氏が選ばれた。FISMレディース・マジシャン・コンテスト優勝は、ゆみ氏同時に、彼女がアボットにも招待されることとなり、ディーラーとして出席した、Hank Moorehouse氏が彼女に目録を贈呈した。下田結花氏の講評では、全てのコンテスタントの得点は近接しあっていた、優勝者もこのままFISMのコンテストに出れば入賞はとても望めないであろう、という内容のことをおっしゃっていた。
 一方、なぜ、レディースマジシャンコンテストなのか、という意図はいまひとつはっきりしないままであった。また、コンテストの目的はFISM2000のチャレンジャーを発掘するということであり、オーディションも事前に行っているのであれば(しかも公募はしないで)、もう少し目的に添った形の演技をコンテスタントに行うよう事前に言っておくべきではなかったか?これだけの大きな国際大会をひらいたのだから、コンテストにも重きをおいて、参加したお客さんにもコンテストのあり方に関する説明や、コンテスト開催までの経緯や、審査基準について詳しい解説がほしかった。

スティングのコメント:

あえて、レディースマジシャンコンテストとして企画されたのは、日本奇術協会が主催するコンテスタント選考大会(11月25日)との差異化を狙ったのではないか。世界を目指す女性マジシャンがこれだけ集まるというのは、女性が元気な現代日本の世相を反映しているとも言えよう。

FISMの場合、コンテストの審査基準が公開されているが、改めて説明があってもよかった。一つだけ気になったのは、司会のパルト小石師が審査員の一人であったことだ。司会と審査員が両立するとは思えない。

つづく   


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Update: 1999/11/16