YMG特別例会
近藤博氏レクチャー日時:1990年3月8日(木)
会場: 横浜市中小企業会館 会議室
主催:横浜マジカルグループ
Update: 1998/1/5
このレクチャ−は横浜マジカルグル−プ(YMG)の特別例会として企画されたものです。
テンヨーの近藤さんによるマジック愛好家向けのレクチャ−としては、今回が初めてであり、今後ともやるつもりはないそうです。
というわけで、とても貴重なレクチャ−でしたので、みなさんにもご紹介したいと思います。
テンヨ−の開発スタッフのみなさんがどのようにして毎年毎年優れた新製品を考え出すのか、という点はマジックファンならだれでも知りたいところです。
今回のレクチャ−の中で、近藤さんは以下のようなプロセスが大事であることを教えてくれました。
(1)マジックを考えなければならない状況に身をおく。
まずは、動機づけ(モチベ−ション)が重要だと言われます。今回のレクチャ−で実演されたオリジナルマジックを考案するにあたっても、次の2つの動機づけがあったそうです。
1)YMGのレクチャ−用に何かオリジナルを考えなければならない。
2)次回の天海賞の作品集用に何かオリジナルを考えなければならない。
(注)昨年の天海賞は該当者なしだったため、今年の天海賞の作品集は
今までの受賞者の方々による合同作品集となることが決まっています。
(2)たくさんの刺激をインプットする。
昨年の天海賞パ−ティ−は、マックス名人さんの受賞祝いの意味もあり、たくさんのメンタルマジックが演じられました。近藤さんにとって、「メンタルマジック」というテ−マで多くの刺激を受けたことは、次のアイデアの創造のために、大変有効だったそうです。
(3)アイデアがアウトプットされるのを待つ。
この段階までくると、あまり苦労することはなく、アイデアが沸いてくるのを待っていればよいと言われます。近藤さんの場合、天海賞パ−ティ−の夜、早くも一つのアイデアがひらめいたそうです。
*オリジナル作品の発表と解説
ESPカ−ドを用いたメンタルマジックのオリジナル作品を3種、実演していただきました。いずれも未発表のため、詳しい解説はここでは控えますが、
1点は「THE NEW
MAGIC」(フロタ・マサトシ氏編集)の最新号に、
もう1点は今年の天海賞の合同作品集に掲載されるとのことです。
特に最後の1点はESPカ−ドの隠れた性質を応用した素晴らしい作品です。
*各種マジックの実演と解説
以下、近藤さんが気に入っているマジックを多数紹介されました。
(1)ランプ
外国製の珍しい商品で、ボタンを押すとランプが不思議な点灯をします。
(2)サムチップ
フランス製の商品で、白紙が鮮やかに消失します。
(3)ライジングカ−ド
ギミックに特徴があります。
(4)THEタバコ第1作(オリジナル・バ−ジョン)
近藤博さん考案のテンヨ−の世界的ヒット商品「THEタバコ」の商品化
前の試作品1号をみせてくれました。製作に丸3日かかったそうです。
(注)1981年にテンヨ−から発売された「THEタバコ」は30万個
以上が国の内外で売られ、世界各国で多くのバリエ−ションが考案
されています。
(5)THEタバコ(タバコと鉛筆の手順)
東京の山下信一さんのアイデアで1990年のテンヨ−の手品カタログに
紹介されているものです。カタログを読んだ時は、見過ごしてしまいましたが、
実演をみると素晴らしいアイデアだということに改めて気付きます。
現象は、「THEタバコ」を使って、ケ−スをすりかえることなく、マイルドセブン、
ハイライト、そして最後は鉛筆を3つに切って、復活させるというものです。
(6)ジグザグカ−ド
THEタバコのカ−ド版で未商品化のものです。
商品化されたジャンボカ−ドサイズの「ジグソ−カ−ド」とは異なり、
レギュラ−サイズのものです。
(7)ボ−ルと木の板を使った小品マジック
アメリカのマジック専門誌「ジニ−」で紹介されていたものだそうです。
(8)ハンカチとコップとコインを使ったマジック
サブリミナル効果(潜在意識に訴える手法でアメリカではCMで使われて
注目されたが、いまでは禁止されている)の話をまじえてのジョ−ク・トリックです。
(9)お札のジグザグ
THEタバコの紙幣版で未商品化のものです。
(10)ジグザグ・コイン
第19回石田天海賞「近藤博作品集」に掲載されたもので、何枚かのコイン
を立方体のケ−スに入れ、まとめてジグザグにするという、他にあまり類を
見ない現象です。
(11)インタ−ナショナル・カ−ドトリック
別名フルデックル−ティンとも呼ばれ、沢浩氏、マイク・スキナ−氏、
のアイデアをとりいれて近藤博さんが考案した有名な作品です。
同様に前記「近藤博作品集」に掲載されています。
最後に、残った時間を利用して、近藤さんにいろいろとお尋ねしてみました。
Q1.最近考えているマジックのテ−マは?
A1.盲人のためのマジックが作れないかと考えています。
メンタルマジックや点字トランプが応用できるかもしれません。
Q2.最近もっとも注目しているマジシャンは?
A2.黒木健一さんです。(注:今年の日本クロ−スアップ大賞グランプリ受賞者)
彼のアイデアは当たり外れがなく、みな一流なところが凄いですね。
Q3.今年渡米した時見たマジックショ−でもっとも良かったものは?
A3.ラスベガスでみたバ−クレ−ショ−の人体浮揚です。
マックス名人さんも絶賛しています。
Q4.タ−ベル・コ−ス第8巻の出版予定は?
A4.今では、特に予定はありません。最近の奇術界も以前とだいぶ状況が
変わってきており、若いマジシャンが自由にオリジナル作品を発表出
来る場が増えてきたため、あえて日本マジシャンの作品集を出版する
必要性もないのではないでしょうか。
(注)タ−ベル・コ−スは第7巻で完結し、その日本語版がテンヨ−より
1981年に発売されましたが、日本のオリジナルマジックを集めて
第8巻を出版(1984年末予定)する企画がありました。
近藤博さんのレクチャ−は、期待以上に素晴らしいものでした。ソフトな語り口と素敵な笑顔から醸し出されるフレンドリ−な雰囲気に、とても好感が持てました。
また、マジックに接する態度には、教えられることがたくさんありました。
最後に、印象に残った言葉を記します。
「最近は、以前と違って高度のテクニックを使ったマジックを演じることが、
出来なくなってしまいました。
そこで、最近はいかに楽をしてマジックの現象を起こせるかを考えるように
なりました。
しかし、今だからこそ、素人のみなさんでも安心して演じることのできる
マジックの商品を考えることが出来そうです。」
1990.4.22 スティング(MHB01374)
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Update: 1998/1/5