杉並奇術連盟の発表会’90

日時:1990年11月3日(土)14:00開演 17:10終演
会場: セシオン杉並
入場料:無料
主催:杉並区・杉並区文化団体連合会・杉並区教育委員会・杉並奇術連盟

Update: 1998/1/5


はじめに

昨年のレポ−トで私は、この会を見る楽しみとして次の3点をご紹介しました。

(その1)厚川昌男(推理小説家:泡坂妻夫)さんのオリジナルマジックが見られる

(その2)ジャズバンドの生演奏を聴きながら、マジックが楽しめる

(その3)フロタ・マサトシさんが主宰する邪宗門クラブの同人誌「THE NEW MAGIC」
          の最新号が手に入る

今回もこれらの点を中心に、感想を述べてみたいと思います。

*厚川昌男さんの「オリジナルマジック」

  泡坂妻夫氏としての直木賞受賞後も、アマチュアマジシャンとしての厚川さんのステ−ジを見ることができるのは、とても嬉しいことです。

 今年の演目は、お得意のロ−プマジックでした。

 ロ−プの結び目がいつのまにか出来、ほどいてもほどいても結び目が解けず、しまいにはハサミで切ろうとすると、そのハサミもロ−プに絡まってしまうという厚川さんの傑作手順です。

 私はこの演技はもう何度も見ているのですが、何度見ても飽きません。この理由は、厚川さんの演技には観客との対話が感じられるからだと思います。素敵な人には何度会ってもよいものです。

 私もいつかこんなマジシャンになれたらいいなと、いつも思っています。

*フロタ・マサトシさんの「ビリヤ−ドボ−ル」と「紙玉の復活」

 昨年のカ−ドマニピュレ−ションに続き、今回はビリヤ−ドボ−ルの基本的ハンドリングを見せてくれました。

 スライハンドマジック(注1)の好きな私にとっては、もうこたえられません。特に口の中からボ−ルがいくつも出てくるその素晴らしい演技に対して、客席からは思わず称賛の拍手が巻き起こりました。

 後半はおしゃべりをまじえての紙玉の復活マジックでした。

 1枚のちり紙を2枚、4枚、8枚、、とバラバラに破り、おまじないをかけると元に戻ってしまうというマジックのサッカ−トリック(注2)です。

 このマジックは私の好きなマジックのひとつで、ちょっとしたパ−ティ−などでよく演じます。

 最後に紙玉を復活させる時、ちょっと不安そうな表情をするとよい、というアドバイスはとても参考になりました。

 お客さんと一緒にマジックの不思議な現象を楽しもうというわけです。

 また、横を向いた時の足の位置とか、落とした物を拾う時の足の運びとか、ステ−ジにおける基本動作を分かり易く解説してくれました。

*仏坂 靖彦さんのパントマイム・マジック

 フル−トを持って演者が登場して、演奏を始めようとしますが、くしゃみが止まらなかったり、床に落ちていたガムがなかなか取れなかったりする演技の内にボ−ルやコインや手鏡をつかった不思議な現象が起こります。
最後にフル−トも消えてしまい、「も−やめた」という感じで終ります。

 仏坂さんのこの演技は、昨年の発表会と今年のフレンドシップコンベンションのコンテストに続き、私が見るのは3回目です。

 今まで、少ししつこ過ぎる印象のあった「くしゃみ」のアクトがほどほどになり、フィニッシュのフル−トの消失では、見事なミスディレクションになっていたと思います。

 この方も自分の芸の完成に向けて、一歩づつ努力されているようです。

*ジャズのバック生演奏

  ピアノ:鈴木俊夫、サックス:森マモル、ベ−ス:小山信彦、ドラム:辻村昭一

 という一流ジャズマンによる生演奏をBGMに使うこのマジックショ−は一般の発表会としては、大変珍しくとても羨ましい音響効果です。

 ただ、辻村昭一クワルテットの演奏はもちろん素晴らしかったのですが、マジックショ−のBGMとして見た時に、今回はやや気になる点を感じました。

(1)マジックの演技が見にくかった。

バンドのメンバ−の方々は、ショ−の最初から最後までステ−ジ中央奥で演奏をされていました。つまり、楽器や演奏者の動きが絶えず観客に見えており、演者や演者の出したものがバックと重なる場合があり、マジックの視覚的効果の妨げになっていた点があります。

(2)生演奏のメリットを十分に生かしきれていなかった。

生演奏の魅力は、演技の雰囲気に合わせて曲の感じを変えたり、演技のクライマックスではドラムロ−リングを用いたりたりして演技を盛り上げたりできる点にあると思いますが、今回はあまり生かされていなかったように思います。

*「THE NEW MAGIC」の最新号

 待ち焦がれていた Vol. 28 を手に入れました。Vol. 28 ではπさん(松山光伸氏)によるFMAGICの紹介が掲載されています。(Vol.28 No.3 1989.10.5 発行)
タイトルは「マジック愛好家の新しい道具、ワ−プロ通信」です。
その他、フロタさんの北九州コンベンションのレポ−トや厚川さんのコインマジックの連載など興味深い記事が載っています。

最後に

 今回の発表会では、お目当ての厚川さんとフロタさんの演技を見ることが出来、個人的には満足していますが、ショ−全体としては、いくつか不満な点があります。

(1)ショ−の時間が長かったこと

特に第1部は出演者が15人もいるので、各自の持ち時間をもっと短くした方がよいと思います。また休憩の20分は長すぎ、10分ぐらいでよいと思います。

(2)ショ−の構成がよくなかったこと

重複した演目・現象の連続が随所に見られました。
例えば、第1部の遠藤さんと赤松さんの「若狭の水」、大森さんと増田さんの「リンキングリング/ロ−プ」、熊沢さんと伊藤さんの「四つ玉」などです。

以上、いろいろと書いてきましたが、来年もまた見させていただくと思いますので、今年以上のショ−を期待しています。


(注1)スライハンドマジック

 手先を使う手練のマジックのことであり、代表的な演目に、カ−ドマニピュレ−ション(ミリオンカ−ド)、ビリヤ−ドボ−ル(四つ玉)、シガレット、シンブルなどがある。

(注2)サッカ−トリック

 失敗したと観客に思わせながら、結果的にはタネが分からないというマジックの演出のひとつ。高度の演技力が要求される。

1990.11.4   スティング(MHB01374)


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Update: 1998/1/5