The Magic of David Copperfield
Dreams & Nightmares Japan Tour 1998
日時:1998年4月29日(水・祝)15:30-17:45
会場: 東京国際フォーラム ホールA
主催:日本テレビ
特別協賛:マツモトキヨシ
後援:J-WAVE
協力:ぴあ/女性セブン
企画・製作:M&Iカンパニー
入場料:12000円(S席),10000円(A席),8000円(B席),5000円(C席)
Update: 1998/5/16
Rev.1: 1998/5/4
1998年ゴールデンウィーク。 デビッド・カッパーフィールドが、"Dreams & Nightmares"(夢と悪夢)を持って日本にやってきました。東京国際フォーラム(ホールA)において、4月28日から5月5日まで全18公演が開催されています。私は、4月29日15:30からの3回目の公演を見てきました。今回は、この模様を詳しくレポートしたいと思います。
会場は、日本最大の収容人員(5012席)を誇る東京国際フォーラム(ホールA)でしたが、正直言ってチケットは売れているんだろうかと少し心配していました。デビッド・カッパーフィールドと言えば、世界ナンバーワンのマジシャンですが、日本での知名度はそれほど高くはありません。日本テレビ開局45周年記念と銘打ったイベントの割には、事前の宣伝は控えめな感じで深夜番組やバラエティ番組の中で一部紹介されるという状況でした。
しかし、そんな不安も会場に入ってみるといっぺんに吹き飛びました。会場は子供から年配の方まで幅広い年齢層の観客で埋め尽くされました。単独のマジックショーで5000人程の観客を集めたのは、日本では初めてのことではないでしょうか。それも18回もの公演を連続に行うというから驚きです。
開演予定の15:30を15分過ぎた頃、一人の男性アシスタントが舞台に登場し、今回のお土産マジックで使用される特製(紙)シートの準備方法が説明されました。そして、月の絵が描かれたカード1枚と白紙7枚を揃えて胸ポケットにしまい、開演を待ちました。
さて、いよいよ開演の時を迎えました。
1. Heaven on the Seventh Floor ('92) |
(エレベータ) |
2. Deathsaw ('88) |
(死の回転ノコギリ) |
3. Grandpa's 4 ace card trick ('95) |
(祖父の4Aカードトリック) |
4. Cocoon ('96) |
(まゆ) |
5. Graffiti Wall ('92) |
(グラフィティ・ウォール) |
6. Interactive Experience ('96) |
(インタラクティブな体験) |
7. The Laser ('98) |
(レーザー) |
8. Tides ('96) |
(潮) |
9. Unplugged ('96) |
(3つの指輪) |
10. The Fan ('95) |
(扇風機) |
11. Amazon Ritual ('93) <VIDEO> |
(情熱の炎:アマゾンの儀式) <ビデオ上映> |
12. Voyeur ('96) |
(のぞき魔) |
13. Rose ('91) |
(バラ) |
14. Flying ('92) |
(飛行) |
15. Snow ('95) |
(雪) |
(注)タイトルおよびカッコ内数字は初演年度の推定です。
客席から幼少の頃のデビッドを思わせる少年が登場。舞台を見渡すと上からエレベータが降りてくる。しばらくするとスクリーンの中に男の影が見え始め実物のデビットとなって登場。
この演出は、エンディングのSnowへの見事な伏線になっています。
このイリュージョンは、1990年4月の第1回日本公演で初めて見たものです。人体切断はこれまで多くのマジシャンが演じてきましたが、時計を逆戻りさせて復活するという演出は素晴らしいアイデアだと思います。
ところで、始めに観客の女性から借りたヘアピン(注1)はどんな意味があったのでしょうか。
冒頭に祖父と並んだ幼少のデビッドの写真がスクリーンに映る。そしてデビッドのよき理解者であった祖父から教わったカードマジックをカメラの前で演じる。舞台中央と両側に設置された巨大な400インチ・スクリーンには、彼の手元がはっきりと映し出される。
この演技は、本当に感動的でした。ここで使われたBGMの旋律は、今でも脳裏を渦巻いています。クロースアップマジックを5000人の前で演じて、これほど観客に感動を与えたマジシャンは、彼が最初でしょう。
「状況の変化、情熱的な愛、男と女の間」という彼の日本語のセリフから始まる美しく幻想的な人体交換イリュージョン。ところで、女性の衣装の色がCBSスペシャルで見たときの白ではなくてレディッシュブラウン(注2)だったのは気のせいでしょうか。
始めに、デビットは予言を書いた紙を入れた封筒を示し、常に観客の見える場所に吊り下げておく。イミテーションのレンガを客席に投げ込み、受け取った観客に質問する。
「好きな動物は?」「色は?」「イニシャルは?」「電話番号は?」「名前は?」・・・。
選ばれた一人の女性とデビッドが舞台に準備された壁の上に次々とそれらを書いていく。
最後に、封筒から予言の紙を取り出して広げると、壁に書いた内容と一致している。
こういった観客参加型のマジックは、デビットはとても得意ですね。今回は日本人相手でしたがたっぷり笑わせてくれました。例えば、「良平」という名前が言われると「NO
HAIR」と書いてしまいます。もちろん、これはジョークと言ってフォローするのも忘れません。
開演前に準備した8枚のカードを使ったお土産マジックの解説。デビッドの指示通りにカードを操作すると数枚目に出てくるカードは月のカードになる。途中で自由に混ぜているため観客ごとに違う枚数目になるような気がするが、ほとんどの観客が同時に月のカードを出して立ち上がる。
このトリックは、昨年11月のラスベガス公演でも体験しましたが、その時は私はうまくいきませんでした。しかし、今回は大成功。実に不思議です。でも、家に帰ってもう一度試みましたが、途中の操作(注3)がどうしても思い出せません。
レーザーを身体の腰のあたりに当てると、上半身が回転を始める。さらに、下半身と完全に分離した状態で階段を降りてくる。最後に一瞬にして元のデビッドに戻る。
これは、初めて見る不思議でコミカルなアクトでした。考案者はスティーブ・フィアソンだそうです。彼は他のマジシャンの作品を取り上げて自分の演技に仕立て上げてしまうのが実に巧いですね。絶えず研究を怠らないデビッドの一面を窺い知ることが出来る逸品でした。
グラスに水を並々と注ぎ入れ、布をかぶせて、しばらくすると水は消えている。再び布をかぶせると、また水が戻っている。彼は月の石を持ち出して、この現象を潮の満ち干になぞらえて説明していく。最後に、生命の誕生というわけで、グラスを示すと生きた金魚が水の中を泳いでいるのが見える。
金魚が最後に出てくるマジックは、マジシャンなら誰でも知っているトリックですが、こんな素敵なストーリーにしてしまうところが彼の凄いところです。技術的にもネタのロードの巧みさに、思わず唸ってしまいました。なお、この作品は、公演日時により、演じなかった回があったようです。
観客から借りた指輪を目の前で繋ぎ外しする。スタンダードナンバーの「リンキング・リング」のカッパーフィールド・バージョンです。ここで、彼は大きな虫眼鏡を持ち出して、カメラの前でギャグを連発します。中でも大ウケしたのは、アゴを拡大して見せながら、「アントニオ・イノキ〜」と叫んだところ。お茶目なデビッドを印象付けたシーンでした。
巨大な扇風機の中を、デビッドと美女(注4)が通りぬけていく。アッと思った瞬間、彼は客席から出現。美しいプロポーションの女性との絡み合い。風になびく女性の髪とシルク。あまりの美しいステージに息をのむばかりです。この演技を見た、タレント大石恵さんの感想は、「スッゴク、カッコイイですね。私も消して欲しいとか思いました。見てて。」というものでした。
ちなみに、客席からの出現は、今回は彼一人でしたが、CBSスペシャル16th"Unexplained
Forces"(1995.5.1)では、二人同時でした。
CBSスペシャル15th"Fires of Psssion"(1994.3.30)で全米に放映された「空中からの逆さ釣り脱出」。デビッド曰く、「私の人生の中で最も危険な2分間だった。」
"Voyeur"とは、「覗きの変質者」という意味。美しい女性姉妹のベッドルームを彼が覗き見しているシーンから始まる人体交換イリュージョン。
客席で演じる紙玉の浮揚。紙を丸めてバラの形をつくると空中に浮く。ライターで火をつけると一瞬にして本物のバラに変化する。
このトリックも奇術愛好家にはよく知られたネタ(注5)を使っていますが、彼ほどスマートにそして不思議に演じるマジシャンはいないでしょう。彼は、この時必ず年配の女性をお手伝いに頼んでいます。最後に出した一輪のバラを女性に手渡すシーンは、実にほほえましく感動的です。昨年11月のラスベガス公演では、回りの観客に見えない後ろの死角スペースで演じていましたが、今回は、前席の真っ只中で演じました。
デビッドが空中を鳥のように飛び回る。大きな輪をくぐって、何の仕掛けもないことを示す。さらには、透明なガラスの箱の中に入ると、まるで水の中を泳ぐように空間に浮遊する。最後に、観客の女性を抱えたまま空中を飛行する。
私が、このイリュージョンを初めて見たのは、1992年8月に東京ベイNKホールで行われた第2回公演の時でした。その時も涙が出て止まりませんでしたが、今回もまたジーンと熱いものがこみ上げてきました。まさに、信じられない光景が現実に目の前で起きているのです。
CBSスペシャル14th"Flying -- Live the Dream"(1992.3.31)完成後のインタビューでデビッドは、次のように答えています。
「私にとって、Flyingは究極のイリュージョンです。そして、私は知っている。多くの人たちが空を飛ぶことを夢見ていたことを。」
このイリュージョンは、彼が10年かけて完成させたマジックであり、これから長く世代を超えて語り継がれていく名作になっていくに違いありません。
いよいよ、エンディングです。デビッドの指先から雪が産み出されます。気がつくと、幼少のデビッドに変身し、さらにたくさんの雪が降り積もります。そして、広大な会場全体が雪で被われました。全ての演技を終えて、デビッドが観客に向かって爽やかな笑顔で挨拶すると、自然とスタンディング・オーベイションが沸き起こっていきました。
とにかく、感動しました。このショーは、マジックという狭いジャンルを超えて、さまざまな要素を持った超一級のエンターテイメントでした。こんな素敵なショーを具現化した人と同時代を生きた幸運に感謝せずにはいられません。
1998. 5.4 スティング
(注1)このヘアピンは、デビッドが器具を外して脱出するために使うという意図のようです。
(注2)まゆの色が白なので、対照的な色の方が目立つのではという指摘がありました。
(注3)5月13日のYMG例会で解説されました。
(注4)これは、私の記憶違いで、ファンを通りぬけたのはデビッド一人でした。
(注5)この作品の創案者は、ケビン・ジェームスだそうです。
スティングの独り言: 東京公演でちょっと気になったこと
朝日新聞の記事 (1998年5月9日朝刊)
デビッド・カッパーフィールドの公式ホームページ。
"Dreams & Nightmares"'96初演の批評ほか、CBSTVスペシャルの内容など、
彼に関する情報が満載されています。
日本テレビの“ Dreams & Nightmares Japan Tour ”宣伝ページ。
マジックディーラー小宮賢一さんのホームページ。
今回の東京公演のレポートが掲載されています。
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Update: 1998/5/16