「マジック種明かし番組」問題

緒川集人氏のTVにおける種明かしの主張と反論

Update: 2001/10/27


はじめに

公共のTV放送において、「サムタイ」と「クラシックフォース」を種明かししたのは、緒川集人氏が最初のマジシャンでしょう。この行為には、多くの奇術愛好家が驚き、厳しい批判が出ました。最近、マジックメーリングリスト(MML)では、緒川集人氏自身が批判に答える発言をしています。その内容は、従来のマジック界の常識を大きく覆すものでした。私が知る限りでは、このような考え方を支持するマジック団体は、世界中捜しても見当たりません。唯一の例外は、緒川集人氏が所属するウィザード・インだけです。以下に、緒川集人氏の主張を紹介するとともに、私の反論を記します。

2001年10月21日 中村安夫
E-mail : sting.nakamura@nifty.ne.jp

緒川集人氏のTVにおける種明かしの主張と反論

サムタイ、クラシックフォース等をTVで解説することは、他人の発明を無許可で使用することになりませんか?
緒川集人氏の主張:

考案者の権利は守らなくてはならないが、考案者の権利が幅を効かし、そのマジックを自由に使うことができない状況を作ってしまうと発展や進歩を妨げることになる。 私が使っている題材について言えば考案されてからすでに長い時間がたっており、自由に使えるものだと判断している。(2001/10/19 MML)

反論:

サムタイは江戸末期の文献にも「柱抜き」「親指縛り」の名称で紹介されており、諸外国でも発表されている。明治時代に松旭斎天一師が2本の紙縒りで縦結びの方法を完成させ、「天一のサムタイ」として世界的に有名な作品である。現在でも、日本を代表するプロマジシャンの北見マキ師、藤山新太郎師などが実演している。この種を明かすことは、職業奇術師の生活権の侵害にあたると考えられる。

クラシックフォース等の技法は、プロ・アマを問わず、世界中の多くのマジシャンが使用している重要な原理であり、この種を明かすことは、他のマジシャンの演技を邪魔することにつながり、マジシャンとしての倫理に反する行為である。

また、公共放送で不特定多数の視聴者に対して、マジックの種や原理を解説することは、不必要に種を暴露することに相当する。

根拠:


サムタイを子供向け講習の題材に選んだ理由は?
サムタイ以外にもっと適した題材があったのではないですか?
緒川集人氏の主張:

サムタイの原理は子供でも習得可能だ。演出次第では非常に楽しめるので、子供の創造力を高めるためにも適切な題材だ。(2001/10/13 MML)

マジックを紹介できる機会はまだ多くない。だからこそすばらしい、できのいいものを題材にするべきだと考えている。(2001/10/15 MML)

サムタイは演出次第ではプロがやってさまになる題材だ。工夫したり、一生懸命やる価値がある。駄作を教えて、覚えたころにどうせこの程度の作品だよと実感するのでは一生懸命やった子供がかわいそうだ。(2001/10/15 MML)

一般啓蒙的な種というのが種あかし用の奇術という意味ならば、それらは一般に駄作なのでこの番組の趣旨には沿わない。(2001/10/15 MML)

反論:

子供向け講習の題材に何を選択するかは、マジシャン自身の資質に関わる問題である。現在、サムタイの代表的演者であるプロマジシャン北見マキ師は次のように述べている。

「番組で解説された演者は、失礼ながらサムタイの真髄を会得されていない方ではと推測せざるを得ません。もし、奇術にランクをつけるなら、「サムタイ」は決して前座芸ではないはずです。結ぶ方法だけで解決できないテクニックがあるのです。客を誘導しながらも、客自身が思うまま固く結んだと思わせる技量がなければいけないのです。つまり客を誘導する演技力が、この奇術の良否を決めてしまうのです。」

このような高度な作品を子供向け講習の題材に選んだこと自体は、緒川集人氏のマジックの実力を示すものであるが、問題は、公共放送で不特定多数の視聴者に対して、マジックの種や原理を解説したことにより、不必要に種を暴露したことである。

根拠:


クラシックフォース等の技法を解説した理由は?
緒川集人氏の主張:

技法を見せ、それによる可能性を示すことはマジックファンの裾野を広げることに貢献する。(2001/9/20 MML)

クラシックフォースはマジシャンのポテンシャルを示す一端として紹介したものだ。そういう技法があることを紹介したことなど種明かしのうちには入らないし、それで困る演技は演出のほうに問題があると思う。(2001/10/13 MML)

技法を紹介することは暴露ではない。(2001/10/15 MML)

確かに技法は裏側で使われるものだが、それに限定されることはない。演出上お客さんを感心させたい場面で技法をパフォーマンスすることは効果的だ。(2001/10/19 MML)

反論:

緒川集人氏の「訓練によってだけ身につけることのできる基本的な技法を紹介し、マジックの奥深さを感じてもらいたい」という考えは、個人のポリシーであり、非難されるべきものではない。

非難されるべきは、その結果引き起こされた以下の行為である。

1.世界中の多くのマジシャンが使用している重要な原理を明かすことにより、他のマジシャンの演技を邪魔し、マジシャンとしての倫理に反する行為をしたこと

2.公共放送で不特定多数の視聴者に対して、マジックの種や原理を解説したことにより、不必要に種を暴露したこと

根拠:


啓蒙やエンターテイメントのためにTVで種明かしが必要なのであれば、何故あなたの作品を公開しないのですか?
緒川集人氏の主張:

題材としては中級者向きだからだ。 もっとマジック番組が多くなるとかケ-ブルテレビなどでチャンネル数が多くなり、対象者が限定されてもいいような番組が作れる状況になればそうする。(2001/10/19 MML)

反論:

子供向け番組でサムタイを種明かしする時は、不特定多数の対象に対して公開し、自分の作品の場合は、中級者向きなので限定された対象で行いたいというのは全く自分勝手な論理である。種明かしに堪えうるような「素晴らしく、できのよい」作品を持っていないことの口実のように思える。

根拠:


緒川さんオリジナルの中級者向けとされる手順が、公共の放送に適さない理由をもう少し詳しく教えてください。
緒川集人氏の主張:

「二段組の台本を思い浮かべてください。一方の段にはお客さんから見える内容が進行順に書かれています。これを表側の進行としましょうか。演出などは大部分表側の進行に含まれます。 他方の段は表側の進行に合わせて実はここでこういう操作をするなど、お客さんから見えないようにすることがかかれているとします。 裏側の進行ですね。 内容や状況によりますが、裏側の進行として書かれる量の多いものは初心者には大変だろうと判断します。」(2001/10/20 MML)

反論:

表側の進行が、「現象」と「演出」で、裏側の進行が「技法」とするならば、「技法」を公共放送で解説することは適さないことになる。これまでの緒川集人氏の主張と明らかに矛盾する。


参考:FOX TVとMasked Magicianの主張とWAMの反論

ウォルター・ブラニー師の意見 (2001/10/18)

マジックキャッスルの見解 (2001/10/23)


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